君は知らないんだろうね





スイーツの前にした時に見せるとびきりの笑顔に





僕がどれだけ嫉妬してるかなんて





ねぇ、





今度はその笑顔を僕にちょうだい?





【Foolish!】








「お前のせいだバカ」

『おいおい人のせいにすんのかロイ?』


ぐいっとグラスに残ったウイスキーを一飲みにして、またボトルを傾ける。
今日開けたばかりのそれは既に半分以上が消えていて、飲むペースの速さを物語っていた。


「うるさい。お前から電話がなければボロが出さなかったんだ…」


八つ当たりだと分かっている。

しかし思い出すのは昼間の出来事。
己の中に燻っていた感情の正体に気付いた後の再会で、気持ちが昂っていた。そこに不意打ちでファーストネームを使われ、驚きの余り箍が外れてしまった。


あろう事か、エドワードにキスをしてしまったのだ。

突然の出来事に呆気に取られて身体が動かせないのをいい事に、再び口付けようとした。

ホークアイが訊ねて来なければどうしていたのか。
考えるだけで悪寒がした。

これからの事を考えれば頭を抱えたくなるのに、受話器からは揶揄う声が聞こえてきた。


『青春を謳歌してる少年のようだな!で?お前何したんだ?』

「了承もなくキスした」

『はぁ!?お前何してんだよ!』

「だからこうして悩んでるんだ!」


苛立ちに任せて頭をガシガシと掻いた。
誰に対してでもない、己に呆れて深い大きな溜め息を吐く。

本当にどこの子供なんだ。あの子に名前を呼ばれた程度で心を乱すなんて。

そもそも同性を愛する事は一般的ではない。普通に考えるならば排除すべき感情なのだ。
自制出来ていればせめて良好な関係でいられただろうに、己の安易な行動で全てを壊してしまった。どれ程後悔しても足りない。


『お前、その子に本気で惚れてんだな』

「…はぁ?」

『女絡みの事は大抵上手く立ち回っていたお前が、そんなに動揺してるなんて今までなかっただろ。さっさと手を出さないのがその証拠』

「…………」


次の言葉が見付けられず、沈黙する。

自身の女性関係は事実派手だった。
若い頃は夜を過ごす相手に困った事なんてなかったし、一夜の後腐れない関係など何度経験したかも思い出せない。その当時は盛りがついていただけで、一度だって本気になった事もなく、ただの欲望の捌け口でしかなかった。ヒューズに嗜められた事も数知れず。

そんな自分が子供を、況してや男相手に本気だと?

しかし今までの行動を思い返せば返す言葉もない。


「…向こうは私など眼中にないんだ。負け戦はしない」

『おいおい諦めんのか?イーストシティのプレイボーイが』

「何とでも言え」

『はぁーもったいねーなぁ』

「は?」


ヒューズの言葉の真意が分からず眉間に皺を寄せる。問い質そうと口を開いたがヒューズに遮られた。


『お、そういや俺明日朝早いんだった!もう切るぞ』

「おまっ、逃げる気か!」

『エドによろしくな。じゃ!』

「ちょ…っ」


取り付く島もなくブツリと音がして、終話音がヒューズの代わりにロイの制止する声を聞いていた。
最後にヒューズが言った言葉を反芻して、苦虫を噛み潰したように顔を歪めて受話器を置く。


「あいつ…」


ヒューズは気付いていたのだろう。相手が誰なのか。どこから気付いていたかは訊ねてみなければ分からないが。

ソファに座り直して机に置いてあるウイスキーと、折り畳んだコートに視線を移す。
それはエドワードがいつも着ている赤いコートで、件の暴挙の折りに司令部に置いていったものだ。司令部内に置いていくか迷った末に持ち帰り、今目の前にある。

近々コートを取りに司令部に訪れる事は明白。
その時、どんな顔をして会えばいいのか。


考えるだけで重い重いため息が溢れた。


それなのに手元にあるコートをひと撫でしてみる。
本来なら盗られるものでもないのだから、司令部に置いて言っても良かったのだ。



それでも卑しい自分は、彼の身に付けているそれを目の前にして少なからず高揚していた。
その反面、変態じみた己の行為に嫌悪感を抱いて目を反らすように視界に映ったグラスに手を伸ばした。












cotine...








話をこじらせた大佐をヒューズに叱ってもらいました!
折り返し地点は過ぎてる筈!

タイトル訳:馬鹿者が!

2011 5.22



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