Happy Anthology

□愛しい罪で逮捕します
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「もうっ、雲雀さんのバカ!」
「あんまり近くで喚かないでくれる?」
「遠くに行きたくったって行けないのは雲雀さんのせいでしょ!」
「わかったから黙ってってば」


雲雀さんの下で働き早三ヶ月、雲雀さんの気まぐれにも慣れてきた今日この頃。
油断したのがいけなかった。

ため息をつくと、自分の右手と雲雀さんの左手を繋ぐ鎖を見た。けど何度見たって変わりはしない。

私と雲雀さんの手には手錠がかかっている。


「あのとき、手出さなきゃよかった」
「出さなくてもかけたけどね」
「急に手を出せって言うから何かくれるかと思ったのに!」
「ちゃんとあげたじゃないか」
「鍵のない手錠のプレゼントなんて聞いたことありません!!」
「じゃあ今度は鍵付きの手錠をあげるよ」
「わぁ、嬉し…くない!」
「面白いよね、君」


人の気も知らないで、くすりと雲雀さんは笑った。


数分前のこと、雲雀さんが暇潰しという名の特訓で私に手錠をかけた。
突然でびっくりしたけど鍵は無くしたと言うし、しょうがない、見た目は普通そうな手錠だったから髪に止めてたピンを外して鍵穴に差し込んだ。(慣れとはホントに恐ろしい)
しかし、思ったように開かない。

しびれを切らしたらしい雲雀さんが見本を見せるということで自身の左手に手錠をかけた。そして私のピンを鍵穴に差したけどもにっちもさっちも動かない。

そして今に至る。


「笑ってる場合じゃないですよ、どうするんですか…」
「一緒に生活、だね」
「嫌ですよ!ただでさえ仕事で振り回されてるのに、この上日常もだなんて…!」
「ワォ、今ものすごく失礼なこと言ってるって自覚ある?」
「ないです。雲雀さんこそ事の重大さ分かってます?」
「ん?さあ?」
「そんなぁ…」



嗚呼、ああ、どうしよう!
こんなんじゃトイレにだって行けないじゃない!お風呂だって…!
なんでこの上司はそれがわからないんだ!


「ねぇ」
「何ですか!?」
「君は楽しくないみたいだね」
「当たり前でしょう!?この状況が楽しい人なんて何処にいるんですか?!」
「ここ」
「ああはいそうですよねー」
「うん」
「…うん?」


あ、れ? なんかおかしい。
今の流れからすると雲雀さんは今の状況が楽しいということになる。え、楽しいんですかこんな状況が。

悶々となかなか答えの出ない疑問を考えていると手首に感じる違和感。手錠のかかってる右手じゃなくて左手の方。

え?



「なんで左手までも捕まってるんですか私!?」
「今から手錠壊すから掴まえとかなきゃ駄目だろ」
「はっ、壊っ!?」
「動くな、よっ…と」


雲雀さんは器用に手錠のかかってる左手で何処からともなく取り出したトンファーをくるりと回す。
手錠がカチャンと音をたて、鎖が切れた。

目は追いつけども思考回路が追いつかない。


「ん、これでいいね」
「あ…そっ、か…、壊せば良かったんだ」
「まさかとは思ったけど思い付かなかったんだすごいね」
「う…」
「あぁ、深層心理ではずっと僕と繋がっていたかったんだ」
「は?!いやそんなんじゃ…!」
「安心しなよ。離せって言ったって離さないからね」
「えっ、ちょっと…雲雀さんー?!」



愛しい罪で逮捕します


(いいんですか?これ鍵なくしたんですよ?)(うん、いいからさっさとよこしなよ沢田)(まあいいですけど…何に使うんですか)(まあ…ちょっと、ね)



(都葵アヤノ様:逢待夢現)

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