book2
□その眼鏡に御用心!
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その時、三橋は心底焦っていた。理由は単純明快、寝坊してしまったのだ。学校までは一人息子を溺愛している母が車で送ってくれたので、学校自体には間に合った。
しかし、今度は出席をとる教師よりも先に席についていなければならない。
何故なら今回、遅刻してしまえば即、監督の耳に入ってしまう。文武両道に品行方正をモットーとしている野球部なので下手したら練習に参加できなくなってしまうだろう。それだけは避けたい三橋は「廊下を走ってはいけません」と手書きで書かれた紙を無視して、全力で廊下を走っていた。
人生にも言えることだが、注意1秒。怪我一生。走ることに夢中な三橋は廊下の曲がり角でぶつかってしまった。足元でバキンと鈍い音を立てながら。
「う〜ん。見事に割れたな・・・」
そう言った利央の机には黒いフレームとレンズが割れ、原型を留めていない眼鏡があった。立体的なジグソーパズルといっても可笑しくないほどに。
「ご、ごめんなさい・・・オ、オレ弁償する・・・・」
謝りながら三橋は頭の片隅で昔、誰かが『目が悪い人にとって眼鏡は身体の一部に等しい』と言っていたことを思い出す。それを考えると、どんなに謝っても謝り足りない。
「いーって別に。それよりも三橋は怪我してない?」
へこんでいる三橋の頭を優しく撫でる。利央にしてみれば三橋が怪我しているほうが嫌なのだ。
「オレは大丈夫。で、でもメガネが・・・」
「あ、これは・・・」
涙目で自分を見つめる三橋の髪の毛を触れながら利央は、何か思いついたのか急に押し黙る。数秒ほど間が空き、改めて利央は話し始めた。