book1
□スイッチ
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栄口は一人で部室にいた。
放課後、教師に頼まれた用事をこなしていたのが理由。
事情を知っている巣山がモモカンに伝えてくれているだろうから、慌てずに着替えることにした。
制服のかわりに着ている白いシャツを脱ぎ、ロッカーにあるハンガーにかけようとしたとき部室のドアが急に開いた。
ガタッという音がしたので、栄口はアンダーを手にしたまま、その方向に目を向けた。
そこにはびしょ濡れの三橋が立っている。ユニフォームを着たままプールに飛び込んだと思ってしまうくらいだ。
「どうしたの三橋?そんなに濡れちゃって。」
急いでカバンの中からタオルを取り出し、濡れネズミの頭にポフッと置く。
「た、田島くんが、水まいてて、おれ、それに・・・」
「なんとなくわかったから、とりあえず体を拭きな。風邪引いちゃうぞ。」
さっきの三橋の言葉を訳すると
「田島がグラウンドに水をまいていて、三橋はそれに巻き込まれた。」ということなのだろう。
その様子を想像し一人で笑っていたら、タオルをのせたままの状態で胸の前で手を組み「いい人。」とキラキラした目で栄口を見ていた。
そのまま中に入ろうとする三橋に待ったをかける。部室の中が水浸しになったら大変だ。
「三橋、ストップ!部室が濡れちゃうから、せめて上だけでも脱いで、この袋に入れておけ。タオルは俺が持っててやるからさ。」
自分のアンダーが入っていたビニール袋を三橋に手渡す。タオルを栄口に渡してグイッと豪快に上着を脱ぎ袋に入れようとする。
「1回絞ってから入れたほうがいいぞー。もし、水が漏れたら大変だろ?」とやんわりと進言した。
「う、ん。絞って、くる。」三橋は栄口の意見に素直に納得し、ドアを閉めて外に戻っていった。
壁の向こうからボタボタという音が聞こえる。三橋がアンダーを絞ったのだろう。改めて着替えようと栄口は中に着ていたTシャツを脱ぐ。
「あ、ありがとう。栄口くん。」
気がつかないうちに三橋は戻ってきていたらしい。
お礼の言葉と同時に脱ぎ終えた栄口は、目の前にある状況に驚いた。
声が出ないほどに。