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□きっと すべて うまく いく
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そのメールを読むまでは、特に何もない一日が終わるはずだった。

部活を終えて、家に着き夕飯を食べ、お風呂に入り…寝る。Tシャツにハーフパンツという格好の三橋は今日の部活の内容を思い出しながら、ベッドに入った。

「今日も、阿部くんの、リードはすごかった、な。」とか「田島くん、花井くんに、怒られて、た。」など、楽しかった一日を振り返りながら、夢の世界に入ろうとした。

その時…携帯から無機質な音が聞こえていた。それはメールを受信した音。三橋は聞こえなかったふりをし、睡眠を優先させようと目を閉じたままだったが、もしかしたら緊急のメール…。内容は重要なことだったら大変だと思い直し、起きることを決意した。

「う…ん、こん、な時間に、誰だろう…。」

三橋は目をこすりながら、ぬくもりが残るベッドから出て携帯を手に取り、相手を確認するためにディスプレイ画面を見た。

携帯の音量が大きかったので、完全に目が覚めてしまった三橋は、投手の勲章‘タコだらけの指’をムニムニと動かしながら、メールの受信画面にする。

送信者は同じ野球部の水谷。

特に珍しいことではない。同じクラスの泉や田島に浜田と、その日に出された宿題や野球部のことをメールする。もちろん阿部や栄口、花井とか他のクラスの部活仲間とも同じように。

だから、水谷のメールも同じような感じだろうと思ったのだ。それは、好きな音楽や今日の出来事…。

だが、このメールの内容はどっちでも無かった。題名は無題。メールにこだわりをもっている水谷にしては珍しい。しかし三橋は気にしなかった。なぜなら自分自身が題名を考えるのが苦手な人間だからだ。

そのまま、ムニムニと画面をスクロールさせて本文を読んだ瞬間、蜂蜜色で少しだけつりあがった目が落ちそうなくらい見開き、床に携帯を落としてしまった。‘ゴトッ’という音がしたが、今の三橋には聞こえない。

原因は床に落ちている、頼りない光の中にあった。
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