SHORT

□招かれざる客〜その名はおじゃ〜
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騒がしい胸の内と反して、一歩。

一歩、と歩みを進める。

なるべく直視をしないよう目を細めて視界を滲ませて。

うん、意外と効果があるみたいでさほど吐き気は起きない。やっぱり1番の原因は白粉が中途半端に水で流れ、それに混ざる様に苔がくっついてるからだと、薄目のお陰で幾分冷静に判断出来る。


私はペットボトルが届くギリギリの所にしゃがみ込み、手の内でちゃぽちゃぽと存在を主張するペットボトルの蓋を取り、震える手のままお構いなしに目的を果たすべく、ゆっくりと絶大の吐き気を引き出す元凶を流し始めた。


……先ずは…口元にしよう。

泡やよだれが酷すぎる…。

流れ出す水で簡単に泡が消え、大分見れる様になり薄目をやめて汚れ確認をしてみて、……後悔した。


泡とは違いよだれがまだ流しきれてなかった。サラサラと流れる水に抵抗してか、口元から途切れず粘着をまざまざと見せ付ける様に水流にうねり続けている。しかもそのうねうねの中にまで緑色した物が混ざり込んでいて……。


 うえっ

 吐 き そ う


直ぐに目線を外し片手で口元を覆った。

いくらパニック状態だったとは言え、バケツの水なんかかけなければ良かった!
後悔先に立たずとはいえあの時の自分が恨めしい…。

意を決し今度は半開きなっている口の中に標準を定め、水を流し込む。

勿論、目は薄目に戻して。

うねうねが流れたかは確認しないで口元から次は鼻……うっ!なんか鼻から出てる!!
絶対にこれもうねる!
あーもうっ、しかも二本出てる?!


私は薄目を完全に閉じて、祈りながらうねうねが取れる様に鼻があると思われる場所にペットボトルを傾けた。


とぽとぽとぽとぽとぽとぽ


軽くなってきたペットボトルに、うねうね離脱の希望を抱いて、そうっと目を開けて見る。

まず視線はペットボトル。そしてゆっくりと生み出している水流から先に視線を移し、自然と目を見開いてしまった。


ない……っ!
しかも綺麗になってる…!


さっきまで直視出来ない有様が嘘みたいっ。皮膚が溶け出したみたいな白粉や苔、うねうね二本も無くなって本来の肌色だけになってる!


いまだに目は白目を向いたままだけれど、先程に比べれば全く気にならない。でも水を掛けても意識が戻らないのは…どうしよう…、困ったなぁ…。


次にする事を考えながら、目についたおでこの苔に水を差し向け様としたその時。


「ヒィ…ッッ!!」


白目を向いていたはずの目に黒目がぐりんと戻って来て私と目が合った。


一瞬で真っ白になった思考。私に判った事は上下に何度も振り下ろされる腕の感覚と何回も響き渡るべこんべこんという音。

他にも何か音を聞いたかも知れない。


ぼうっとしながら私は、徐々に色を取り戻し始めた思考でやっと周りの惨状を認識した。


辺りに飛び散った水

へたり込み、びしょ濡れな自分自身


そして…


完全に目を閉じ、今度は鼻血を流して倒れてる人。



まだぼうっとする私は何も考えられず、やっぱり月を見上げた。




かわらずに綺麗な月が憎らしかった



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2010.5
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