Novel
□Missing existence
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ところは変わって出かけ先。 緑が目に優しい樹木や草花に囲まれた美しい屋敷に着いた。
人が歩く為なのか、ゆるく舗装された砂利道を歩いて進む。しかしアンジェリカの車椅子は砂利道で使えない。そのため彼女はまたもイスラにお姫様だっこをされているのだが……。
(ううん、なんでしょうこの感じ。なんだかドキドキして、胸がキュウンと苦しくなりますわ。ああ、決してイスラにときめいているのではありませんよ)
そう、例えるなら何かエネルギーを感じ取っているような。双子の片割れを傍に感じているような。そんな感覚。分かるようでわかりにくいそれなのだ。
あまりにも胸が苦しくて、きゅっと胸に手を当ててみる。しかし改善される様子はない。
「どうかなさいましたか、お嬢様」
苦笑を浮かべたイスラがそう問いかける。
(ああ、傍から見たら私の行動は不思議だったのですね。むむ、イスラに指摘されたのはちょっとばかしむっとしましたが、あまり表に出さない方がいいでしょう)
「いいえ、なんでもありませんわ」
「なら、よいのですが……」
ぷい、とアンジェリカが顔をそらした視線の先には中央をタイルで装飾された木の扉。もう玄関前のようだ。
コンコン、と彼女の母、ナターシャがが扉をノックする。どうやらこの屋敷、ベルがないらしい。
「どんな方が住んでいらっしゃるのかしら」
「……凄く変わったお人です」
小さなアンジェリカの言葉に答えをくれたのはイスラで。
(馬車では知らない風を装っていましたのに。やはり知っていたんじゃありませんか)
イスラも意地悪だわ。
アンジェリカが溜息を吐くのとお屋敷のご主人が出てきたのは同時だった。不気味なくらいに。
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