Novel
□太陽を穢す
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みし。
骨が嫌な音を立てた。
なんだ、こいつ、こんな力強かったのかよ……!
「音無さん」
猫撫で声で俺の名前を呼んでは首を絞める力を強める直井。俺はといえば、うまく呼吸ができなくて小さく喘ぐだけ。
一応、今出せる力を出し切ってもがいて抵抗しているつもりなのだが直井はびくともしない。
「音無さん」
にへら。
無邪気に微笑む少年が今はただ、ひたすら怖かった。
いくらここが殺されても死なない世界だからってこんな少年に、後輩に殺されるなんていやだ。
しかしもうもがく力なんて殆どなくて。飛びかけている意識を必死に保っていることも難しい。
そんな時、ぱっと手を離された。途端に勢いよく入ってくる空気に俺はむせる。
「げほっ、ごほ、……はっ、ぁ」
そんな俺を相変わらず微笑みながら見つめる直井にぞっとした。
直井から視線を逸らして呼吸を整える。
「音無さん、僕を見てください」
「……っは、」
−−いきなり何を言い出すんだこいつは。
驚いて固まってしまった俺の頬に手を添え、無理矢理自分と視線を合わせる直井。
その瞳の色はいつもの綺麗な黄金色なんかじゃなくて−−。
−−まさか……っ!
おぞましい程に爛々と輝く紅色だった。
「いいですか、音無さん。僕の目をしっかりと見てください」
咄嗟に逸らそうとも、つむろうともしたのだがもう遅くて。直井の催眠術は始まっていた。
「音無さん、あなたは僕のことが大好きなんですよね」
「や、めろ……」
「戦線の仲間や、天使よりもずっと。ほら、その瞳にもっと僕を映して。もっとよく見て下さい」
「あ、あ……!」
「音無さん、あなたには僕が必要で、僕にはあなたが必要なんです。だからあなたは僕を、僕だけを愛すんです。他人への好意なんて捨ててしまえばいい。ね?」
「ああ、ああ……!ーーーーーーーッ!」
俺の名前は音無。
それ以外はあまり記憶にない。
関わりのある人間だとかは名前と顔は覚えてはいるけど、その人間に対する自分の感情やら相手と共有した時間とか。そういったものが綺麗さっぱりと抜け落ちている。
一体何なんなのだろうか。全くわからない。
−−ああ、いや。分かることがひとつある。
俺はある人物を心底愛しているのだ。
「なおいを、あいしている」
そう。後輩の直井。互いに愛し合っていて、側にいるのが心地いいって。
ただ、それだけ。
太陽を穢す
(きっとあなたは正攻法では振り向いてくれないから)
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自称神の憂鬱
こちらの企画サイト様に提出させていただきました。
直井が愛が行き過ぎてヤンデレ化してたら面白いなあって、思ったらこんな感じになっていました。
楽しかったです。
100620