Novel

□笑顔を届けに来ました
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ある夏の日。
俺は不思議な出会いをした。






今日で両親が亡くなってから丁度一年経つ。
俺は両親が健在だった頃を思い出して泣きそうになって。しゃがんで顔を膝埋めて泣くのを堪えていた。
そんな時。
「どうしたの?」
そんな声と一緒に視界に誰かの手が映りこんできた。
−−なんだよ、ほっとけよ。
俺はそれを邪魔くさく思い、顔ごと反らすのだがその手も追ってきて。仕方なく手の主を見るべく顔を上げる。
自分で伸ばしておいてあれだけれど前髪が鬱陶しい。
徐々に見えてきた柔らかそうなふにふにとした子供特有の手と華奢な体。白いワンピースを着ているからきっと女の子だ。
そして俺は視界に一人の女の子をしっかりと捕らえた。
「あ、」
高く昇る太陽の光を美しく反射した白い髪。肌の色もそれに負けずと白くて。その中にレモンイエローの瞳がキラキラと輝いていた。
「だいじょうぶ?」
かけられた言葉はたどたどしくて、でも、温かみを帯びていた。
表情は優しいというようなそれではないのだけれど、雰囲気が天使みたいで。
「だいじょうぶ?」
返事をしない俺を不審に思ったのか、彼女がもう一度声をかけてきた。
「え、あ、ああ、うん」
「そう、ならよかった。て、つかんで」
「……ありがとう」
ほっとしたように口元を少し緩ませた彼女に手を引かれて俺は立ち上がった。
よくよく考えてみると、これって生前父さんがよく言っていた"男の恥"ってやつなのかな。女の子に手を借りるとか。
「ねえ。あなたのなまえ、きいてもいい?」
「おとなしゆづる」
「あ−−」
女の子が小さく声を漏らした。
同姓同名の知り合いでもいるのかな。
でも、音無の姓って珍しいって聞いたことあるような気がする。
「あなたがそうなのね」
「え?」
「よかった、すぐにみつかって。じかんあんまりないから、みつからなかったらどうしようってかんがえてたの」
「?」
なんだろう。この子、何を言ってるのかな。
多分俺を捜してたんだろうけど……いやでも、初対面の俺のことなんか捜すかな、普通。
「あのさ、きみ、だれ?」
名前を聞いたら、彼女は唇に人差し指を当てて言った。
「ないしょ。わたしはまだあなたにであってないから」
「おれたちここでであってるじゃないか」
そう言ったら、ううんって首を左右に振られた。
一体なんだっていうんだろう。
「わたしがあなたとであうのはずっとさきなの」
「いみわかんない」
「うん、いまはわからなくてもいいの」
「……ずっとさきっていつ?」
「そうね、−−ゆづるはいまいくつ?」
なんでこのタイミングで歳なんか聞くんだろ。
「おれ、いま5さい」
「それなら、わたしとゆづるがであうのはまだ13ねんくらいさきだね」
「13ねんも?」
「うん」
っていうか待って。
今この瞬間俺たちは出会って話してるのに、どうしてこの子は俺と出会うのが13年後なんて言うんだ?
ええと、今から13年後っていうことは−−俺が18歳のころ?
あーもう、本当意味わかんない!
「わたしね、」
女の子が柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。
俺は黙って彼女の言葉を聞く。
「ゆづるにおれいがしたくてここにきたの」
「おれい?」
「うん」
なんの?って聞いたら、内緒って言われた。
なんなんだよ。とことん秘密主義?
「ありがとうゆづる」
「いまいちうれしくないありがとうだ」
「うん、いまはそうだろうね。でも、ありがとう」
「……」
にこにこと笑いながらありがとうっていう彼女は可愛くて。柔らかくて安心できるような雰囲気で。
でも内緒にされてることが気になる俺は素直に喜べなくてふて腐れる。
むっとした表情で彼女を見れば苦笑された。
「ゆづる、わらって?」
「なんでだよ」
「わたしがあなたのえがおがすきだから」
「であってすうふん、いちどもわらってないけど」
「すきなの」
……。
わけわかんない。
でも、うん。まあ。
「おもしろいからあんたのことすきになれそうだよ」
この不思議な感じは嫌いじゃない。
苦笑だけど、笑いかけた。
作ったわけじゃない自然の表情。本音。
「そっか。ありがとう、ゆづる」
「っ!」
ぶわりと一陣の風が凪いだ。あまりの風の強さに目をつむってしまった。
そろりと目をあけたら、そこには−−
「かな、で……?」
さっきの女の子が成長したような姿の女性がいた。
俺は何故か彼女の名前を知っていて。
何故か暖かい気持ちでいっぱいになって。
何故か、寂しい気持ちでいっぱいになって、泣いていた。
「あ、だめね。もうタイムリミットみたい」
"かなで"の言葉ももう子供特有のたどたどしさはなくて。
"かなで"の腰くらいの位置にある俺の頭をしゃがんで優しく撫でながら"かなで"がこう言った。
「私ね、御礼を言いたかったからここにきたの」
「……さっき聞いた」
「うん。でもね、それだけじゃないの」
「?」
「私、結弦にね、」







「笑顔を届けに来ました」
(そう笑って言った"かなで"は)
(あっという間に光になって消えた)
















−−−−−−−−−−−−
優しい朱様に提出させていただきました。
遅くなってしまって申し訳ありません…!
天使ちゃんが過去にタイムスリップして(姿は5、6歳)ちび音無くんに会って。のつもりなのですが別人すぎるorzすいません。
両親が亡くなったのがいつかわからないので4歳の頃亡くなったことにしました。でもそれだったらあんなに捻くれないかな……。
この後ちび音無はこのことを忘れてしまうのですが、天使ちゃんが消えてしまった後に思い出してまた泣き笑いしながら転生すればいいんじゃないかなあ、と思います。
拙い文章ですが、楽しんでいただけましたらば幸いです。
ありがとうございました!

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