テニス
□Brake breaker
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あるよく晴れた冬の日。
ブレーキになりたいと、私は思った。
Brake breaker
夜中から明け方にかけての急激な冷え込みで、昨日お情け程度に降っていた雪が凍った。
待ち合わせに遅れそうになり、愛用の自転車に跨って大急ぎで目的地へ急いでいた私は、見事にその路面凍結という名のトラップの被害者となった。
「ばっかじゃねえの!」
病室に飛び込んできた赤也の第一声はそれだった。
「あ、赤也」
「『あ、赤也ぁ』じゃねえ!!」
パアンと赤也が床に向かって何か投げ付けた。
乾いた音をたてて跳ね上がったそれはくるくると回転しながら、ベットで体を起こして座っている私の布団の上にぽすんと着地した。
なんでボールペン?
「私そんな気の抜けた喋り方してないよ」
「してるだろ!いっつもいっつも間の抜けた会話しやがって。
つーかありえねぇだろ、なんだよチャリで電柱にぶつかって病院送りって」
捲し立てるように赤也が喋る。
いくらカーテンで仕切られているとはいえ決して個室なんかじゃないので、できればもう少しボリュームを落として欲しいのだけれど、なんだか今日の赤也は騒がしい。
「なんだよって言われても、そのまんまなんだけど。それより赤也、このボールペン」
もしかして受付の所にあるペンじゃないだろうか。
膝の上にのっている病院の名前がプリントされたそれを拾うと、横からもの凄い速さで奪い取られた。
「このバカが!ボールペンより自分の…っ」
「え?」
「…もういい。返してくる」
「待って、赤也」
反射的に私は出ていこうとした赤也の服の裾を掴んでいた。
「なんだよ」
不機嫌そうに振り返る。
構わず服を手繰り寄せて、ボールペンを握っていた手をそっと握った。
「赤也すごい冷たくなってる…。ごめんね、寒かったよね」
慌ててここまで走って来てくれたのだろう彼の頬は上気していて。寒いというよりは酷く暑そうにみえた。
そのせいでうっかり忘れていたけれど、私は今日彼と駅で待ち合わせていたのだ。
そこに向かう途中の坂道で自転車は大破。頭を打って気絶していた私は通行人に発見され、すぐさま病院へと担ぎ込まれた。
気が付いた時には私はこのベットの上にいて。そして、待ち合わせ時刻からは既に二時間もの時間が経っていた。
「そういう問題じゃねえだろ…。んなことはどうでもいいんだって」
そう言うと赤也はしゃがみ込み、私の手に額を押し当てた。
普通なら帰っているだろうに。
寒い中何の連絡もなく待たされて、怒っていても当然なのに。
「…大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと頭打ったのとかすり傷だけ」
電話にでた彼は酷く慌てていて。そして私を心配してくれていた。
気の短い彼のことだから、怒鳴られることも覚悟していたのに。