テニス
□ノンシュガー
1ページ/2ページ
カリカリと乾いた音が紙の上を滑ってゆく。
西日が教室を柔らかいオレンジに照らし、机の足からは長い影が延びている
刻々と近付くタイムリミット。一定の間隔で時を刻む時計の針に、気持ちは焦るばかりだ。
「まだ終わんねーのかよ」
さっきから幾度この言葉を聞いただろう。
「俺、早く部活行きたいんだけど」
「あーもうっ!あんた字汚いのよ!」
一つ前の席に腰掛けた切原から繰り出される嫌味に、何度にぎりしめた消しゴムをぶつけてやろうと思ったことか。
「お前さ、それがノート借りといて言う台詞?」
「さっきから読めない字ばっかなんだもん。もーいやっ!期限つきの課題なんて大っ嫌い!」
足をばたつかせながら、机に突っ伏せば、頭上からはささやかな苦笑が降ってきた。
「暴れる暇があったら、さっさと写しちまえよ」
せっつくように、シャーペンでこつこつ頭をつつかれる。
なんか、悔しい…。
「…万年宿題忘れのくせに」
「その宿題忘れにノート写させてもらってんのは、どこのどいつだっけ?」
「……あたしです…」
こいつってば、ほんと国語だけはできるんだから…。
まだまだたくさんの文字が入る予定の空白を見詰めてうなだれる。
あたしは国語なんて嫌いだ…。
渋々、ペンを握り直して紙に向き合った。
プリントにひたすら綴るひらがなや漢字は、徐々にその形を崩しだし、今や暗号のようになりつつある。
やばい。段々こいつみたいな字になってきてる…。
「!」
突然、何を思ったのか切原があたしの頭を掴んで自分の方へ向けた。
_