テニス
□ノンシュガー
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「……何すんのよ」
頭を掴む手を振り払って再びプリントに目を戻す。
ただでさえ急いでいるのだから邪魔するなと叫びたい。
切原は何だか不満そうな呟きをもらすと、
またがしっとあたしの頭をわしづかみにして、自分の方に向けさせた。
「しつこい」
「なあ」
「何よ」
「お前、さっきから俺が何言ってるか聞いてる?」
「ごめん全然聞いてなかった。何?文句ならもう聞き飽きたけど」
「…いいよ、聞こえてなかったんなら」
拗ねたようにそう言うと、切原は椅子から立ち上がった。
一体何だと言うんだ。
「別に、もっかい言ってくれてもいいじゃない」
「いい。どうせたいした事じゃねぇから」
だったら、どうしてそんないらいらした顔するのよ。
「気になるじゃない」
「………」
思わず腕を掴んで引き留めると、しばしの沈黙の後切原は言った。
「好きだっつってんだよバーカ」
…え?
何が、国語が?
すっと、切原が状況を飲み込めずに固まるあたしの隣をすり抜けた。そのまま教室から出ていこうとして、足が止まる。
「それ、俺のも一緒に出しとけよな」
手元にあるノートを指す切原の顔が赤く見えたのは、きっと気のせいなんかじゃない。
どういう事かなんて、考えるまでもなかった。
まるで入れたての紅茶のように。
苦くはないけど、甘くもない。
キミとの関係はそんなものだと思っていた。
ノンシュガー
(今、砂糖のスプーンを握っているのは、紛れも無くあたし自身)
(2007.10.12)