sleep.03
□君の行く手を阻めたら
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あまり迂闊に顔を見せに行かないで欲しい。頻繁であるのだってもう少し規制して欲しい。
洒落た化粧を施し風呂敷に僅かな荷物を背負う後ろ姿に毎回そう願わずにはいられない。
懐かしいのは解るけどそれだってもう二年も前の話じゃないか。
大体彼女は気付いてはいないのだ。卑らしいあの多数の視線に。
一年生はともかく(きり丸くんは違うみたいだけど)、六年生に至ってはあの温厚な善法寺くんまでもが頭では何を考えているのやら。
最近では目当ての土井先生から事務員の腹立たしい彼までもが。
立場上とてつもなく言いにくいが、父上、だって…。
「仕事はどうする」
「当分はフリーにしておきます」
「へぇ…暫くは私一人で頑張れと、そういう事か」
「スミマセンね」
謝るのならその軽く浮きだったスキップを止めろ。へらりと緩みっぱなしの顔も。
言えれば随分と楽なはずだ。
「なるべく早く戻って来てくれ」
「ええまぁ…出来る限りは」
「きっとだぞ。君が長く隣にいないのは少し堪える」
腕を組み、玄関の柱に寄り掛かりながら呟いてやる。
忍びならば成るべく勝手口を使うように心掛けろといつもの煩い口は今回ばかりは慎んだ。
ピクリと跳ねた肩ににやりと笑みを浮かべてもみるが彼女は背を向けたまま、気付かれる恐れなどない。
それに気付かれた所でこれは私の本心だ、何の支障もない。
「利吉、さん…!」
「行ってらっしゃい」
どさりと荷物が落ちる音と、案の定かっと赤くなった彼女の頬。
これは期待して良いものか。
(080220)