sleep.03
□淡水に浮かぶ水草
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言葉は要らない。しかしそれを伝えるのも紛れもなく言葉である。
どうしてこんなにも矛盾が溢れかえるのか。
泣き出しそうなまでに目まぐるしく変わるこの世界に、私は付いていけそうもないのだ。
「あ、」
「あ…」
家が隣同士であったと忘れていた訳ではないが。出くわす事はない。
確信もないのに信じていた。
迂闊にも出た間抜けな声がふたつ。
けれど無視よりかは幾分ましであるので笑ってみせる。
上手く出来れば良い、のだが。
「部活?」
「まぁな」
「そっか、お疲れ様」
「おぅ」
肩に掛けられたスポーツバッグが妙に悲しい。
鼻の奥も熱い。つんと突かれるようにも痛い。
これが何の前兆かなんていうのは嫌と言うほど知っているのだ。
「雑誌、読んだよ」
「マジで」
「格好良くて最初は誰か解んなかったけど」
「うるせーよ」
だけど本当に変わってしまったと思うのだ。
あの頃、彼が私の隣にいるのが当たり前だった頃と比べて。
雑誌の写真には知っていたはずの笑顔が悲しくなるくらい大人になっていて。現実やら今まで見て来なかったものやらが全て。
拒否も出来ずに見せ付けられた気がした。
そればかり言っては甘ったれの弱音にしかならないが。
それでも虚無感には対処が出来ないまま、今も。
「じゅうくん」
「……、あ?」
いくらかテンポを置いてからの返事に懐かしい名前はもう二度と使えない気がした。
何故なら見上げた顔は私を見ていない。
「じゃあ明日も部活早ぇから」
「うん…」
(080215)
いくら想ったって泣いたって。繋いでいたあの手にはもう触れられない。