煎れたコーヒーもすっかり冷めてしまう程の長い時間。
その間に身動き一つ出来ないのは腕を組んだままこちらを見据える彼から放出される威圧感の所為だ。
ただでさえ人一倍に威厳があるのだからそこら辺の自覚は常に持って頂きたい。
何にしてもこの雰囲気で言える事ではないのだが。
「悪いがお前に頼みがある」
「頼み…と言うと」
先に口を切ったのは彼の方であった。
気まずそうな感じは微塵もない。
やはり自覚が足りない証拠だと。焦っていたのが自分だけであったと気付き恥ずかしくなった。
彼はズルイ。悪魔みたいなアイツとは比べ物にならないけどそれでもたまに悪魔の方が感情的で素直なのではないかと思ってしまう面もある。
瀬那くん達に聞くと決まってそんな事はないと強く絶対的な断言を返されるのだが。
どうにも彼等が騙されているようにしか思えずに怪訝な顔しか作れなかった。
私は彼の泣いた所なんて見た事がないし。笑った顔も困った顔も、全てうわべだけのものに思えてならない。
そういえば西部のキッドさんもそうなのだ。あるいは老け顔はそうなのか。
「早く言ってよ」
「お前、怒らないか」
「内容にもよると思うけど」
……そうだな。
後に続く暫くの沈黙の間に、本心から来る彼の人間らしい表情を見た。
困り顔ではあったものの確かにそれは生きていた。
下がった凛々しい眉もあの作ったような笑顔よりは幾分もましなように見える。
「つまりな、キスしたくなった」
「…は?」
「お前に」
「…は!?」
しかし、恐らくは私が思うより単純なのだろう。
狂言ロマンチスト
(080311)
引き寄せて、そして。