sleep.03
□あの素敵な日々に
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全てにおいてとは言い切れないが、知る限りでは彼というものが何より完璧に近い存在に思える。
例え昨日の試合に飾ったのが惜敗だったとしても、誰もが悔しさに涙した(彼も隠れて泣いていた)としても。
結果的には誰一人として笑顔が消える事もなく。むしろそれが在るべき姿のようであったのでそこまで導いた彼はやはり完璧であるのだ。
「過信も大概にしてくれ」
例の二人に賞賛を浴びせられるのには慣れているがそれだってあまり得意ではない。
それにその言い方はまるで俺が神のようじゃあないか。
怪訝に顔をしかめる彼は謹厳であるものの遠慮をしているようではない。
無意識に老成自重(経験を積むほどに軽々しい行いをしないこと)を実践してみせるその姿すら神のようだとも思ったが、どうせ返る言葉は西部の彼と同じくして遠慮に似る呆れであり諦めなのだ。
「来年はもっと強くなれるよ」
新しいクォーターバックを探さないといけないけど、と付け足すと明らかに彼の表情が曇ったのでこれはまずい。
言い訳を考えようにも真実であるので何も浮かんでは来ないし。何よりも沈黙が長すぎている。
「ねぇ、小判鮫さんからの伝言聞きたい?」
「…あぁ」
少し怯えた素振りに彼の背負う罪悪感と責任を見た。
にこりと微笑んでみせると悪い内容ではないと察して気を緩ませる。
彼は必死だ。
「楽しかったって」
「…そうか」
「あと、ありがとうって」
「…」
…良かった。
目を覆う彼の指から落ちた雫は見なかった事にしよう。
あの素敵な日々に戻る事が出来たなら
(080311)
戻れないからこんなにも美しく愛しい。