sleep.03
□泣いた君にララバイ
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高望みをするにしたってそれなりの度胸や覚悟がなくては務まらない。
飄々としている彼もまた初めてそれを痛感した時は確実にあったのだ。
今の私と何ら変わりなく。
ただ彼は私とは違って悔しさを人に当たる事はしなかったのだろうと思う。
例え血が出るほど唇を噛み締めたとしても、それだけは。
「マルコは強い男だよ」
「峨王よりも?」
すぐさま返されるそれは遠慮とも卑下とも違ってむしろ諦めに似ている。
浮かべる自嘲の笑みは褒められる事に慣れていないのか自虐的なだけなのか。
愛があれば良いとも言いはするが自身に向けられる愛すら疑いかねないのだこの男は。
「女の人なんて星の数ほどいるんだから、さ」
「それは慰めと判断して良いんだよね」
そうだったらお前は優しいねと頭を撫でられて、これじゃあ弱みに付け込んでいるだけじゃないかと慌てて首を横に振った。
謙虚だなと笑う彼には些か誤解を与えたようであるが卑怯な真似だけはしたくない。
「でも誠実すぎるのも疲れないか」
「…マルコ?」
「本当に欲しいものは力尽くでも手に入れないと」
だから今しかないじゃないか俺が弱ってる隙に付け込んでみればきっと俺はお前が好きで好きで仕方ない錯覚に陥るんだから。早く俺を束縛してくれよ俺の全てを制限してくれ、じゃないと思い出して苦しいんだよ辛いんだよ頼むから俺を手に入れて、愛なんて嘘でも良いからさぁ!
「マル、コ…?」
子供のように縋る彼の身体は酷く震えて嗚咽までも耳に届く。
こんなにも純粋で美しい彼にさえも世界は時として残酷なのだ。
泣いた君にララバイ
(080311)
だから彼には本物の愛を。