sleep.03
□ギプス
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あ、声を上げる前に地面とぶつかる彼女は涙目だ。
ふと思い浮かぶのは門前で待ち構えては笑うあの男。
似ている。それでいて双方が自身の中でこうも見事に好き嫌いが分かれているのも笑える。
「立てるか」
「大丈夫、です!」
「しかし涙目だ」
「大丈夫ですってば!」
強情な女は嫌いではない。というより彼女そのものが私は嫌いではない。
差し出した手はいつまで経っても掴まれる事がなさそうなので諦めを見せて引っ込めた。
すみません、そう謝るならば最初から握って欲しかったのだが。困ったように笑ってやればまた泣きそうな顔をされた。
似るのなら完璧なまでに似れば良いものを。
「意地を張るな」
「張ってません痛みません」
「…痛むかとは聞いていない」
強がりであると確信した時点で半ば無理矢理に背に負って歩く。
懸命の抵抗も男女(しかも男は現役のプロの忍者)の力の差を目の前にしてはあってないようなものだ。
「全く…世話を焼くのは得意な方ではないのだけどねぇ…私にどうしろと」
「何もしなくて良いのです!」
恥ずかしいです、降ろして下さい、重いですから、歩けます、ねぇ聞いてますか、利吉さん、利吉さん、利吉さん利吉さん利吉さん!
あぁ素晴らしいなこの声は。
「土井、先生が…!」
「知ってるよ。だから降ろさない」
きっと背負っているものは重苦の塊。
ギプス
(そう、見えないけれど全身に)
(080311)
せめて嫉妬くらいしたって良いだろう。