sleep.07

□犠牲的アンダードッグ
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※ヒロインは幸村のお姉さん。小十郎は先生。


不安定な精神を運んだまま、それはふらふらとした足取りをみせた。
此処に立ち寄るということは他に宛てがあるわけでもないと思うので、ここは自室を兼ねて使用させて貰っている宿直室に招き入れることにする。
他の生徒に見られては厄介なことにもなり得ない、という考えもあっての行動だ。選択肢はない。

淹れたばかりの新茶を啜る背中をぼんやりと眺める。
時折見せる肩の震えは彼女が泣いている何よりの証拠になるのだろうが、後ろ姿から確認することは困難とされた。

「使え」

「…はい」

今の自分に出来ることと言えば。そっと手渡したタオルを彼女は振り向くことなく受け取った。
ありがとう、ございます。震えるようなか細い声に少なからずこれで泣いているという見解は確実になったわけである。図らずとも。

「先生…、」

「今は名前で良い」

「、小十郎さん」

「何だ」

「顔、見たら怒りますから。あまりこちらを見ないで下さい」

「……解ってる」

しかし泣いているかいないかを知ったところで今の状況に変わりが出るわけでもなし。
仕方なく押し当てるように目元をタオルで覆ったまま動かなくなった彼女から視界を外す。
せっかく背中に回った位置にいるというのに、此処で抱き締めてやれないなどと情けないにも程がある。が、かといって手を出せない理由もこちらにあるので何をするにも裏目に出そうだ。今回ばかりは。

「小十郎さんの所為ですよ、っ」

「あぁ」

「自宅謹慎なんか私は頼んでいません!」

「悪かった」

「……」

「…、悪かった」

ようやくこちらへ向き直る身体は手を伸ばすよりも先にトスン、と小さく音を立てて胸に頬を寄せた。
何度目か知れない謝罪を寄せた耳元に吐けば、更に力を込められて窒素の二文字が頭に浮かぶ。

「確かには教師が生徒を護るのは当然かもしれません」

「あぁ、当然だ」

「うちの幸村を助けて頂いた件は本当に感謝していますし、」

「…いや気にするな」

「です、が!」

小十郎さんだって、心配なのです。
震えて消えてゆく声は確かに俺の名前を呟いた。瞬間に身体が熱くなるだなんてらしくもない。

ただ、俺は彼女の弟が他校の少し柄の悪い生徒に囲まれているのを帰り道にたまたま遭遇しただけで。だから身体を張って追い帰したのも教師という立場上仕方なくでもあったし、恋人の弟だからという贔屓目もなきにしもあらずだったわけで。
つまりは教師としては自宅謹慎という罰はまだ軽い方だと思っているのだ。何も彼女が思い悩むことはない。


「俺がやられるとでも思ったのか」

「少し、だけ」

「そんなに弱いつもりではないのだがなぁ」

「解っています、けど…っ!」

「あぁ悪い。こっちだって解っているさ」

優しいな、さらりと髪を撫でてやれば落ちる涙がまた一つ。


(090531)
心配だなんて愛されている何よりの証拠ではないか。


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