sleep.07
□独房カンタータ
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危険を顧みない彼に些かの不満はあった。ただでさえアメフトなんて危ないというのに先陣を切っての特攻ポジションとは何事だろう。
走り抜けるだけ、というわけには行きそうにもない。それを止める周りの選手は小さな彼とは正反対なほど立派な体格をしていて、見ている私は毎回ハラハラと肝を潰す。
そんな気持ちを彼は知らないままだ。
だから、試合は嫌いだ。
「明日も試合なんだってね」
「あれ?俺言ったっけ?」
「ううん、キッドさんから聞いたの」
「なるほど」
本当はキッドさんに聞く意味などあってないに等しい。テレビにかじりついて相手の情報を見落とすまいと喰いつく姿勢がそれら全てを物語っているように。
男は背中で語るとはよく言ったものだが、これはまぁ別の話だろう。
「試合」
「うん」
「観に行かないから」
「う、ん?……え!」
驚きで目を見開いた顔も可愛いものだなぁ、と持ち込んだ本を三冊も読みきった頭はやけに冷静だ。
どうせ今日の彼はテレビに夢中で私に構う余裕はない。そうなれば私の相手は有無を言わずとも物言わぬ本のみなのだ。
バサリと放り投げた本は四冊目の読みかけ。
此処にいる時間はかれこれ半日以上を向かえるが一向に彼はこちらを見ない。
「頑張ってんねー」
「そりゃあな、負けたくねぇもん」
「あはは、陸らしい理由だ」
と、此処で一つ思い違い。
私は自分が寂しさなんて感じない人間なのだと思っていたのだが。構って欲しい。と、思ってしまった。
柄にもなく。
そっと彼の背中に触れるとどうした?とばかりに優しげな手つきで片手を拐われた。
「俺らしいって、つまりどういうこと?」
「何て言うか、影の努力家みたいな所が」
頑張り屋さんは大好きだぁー、と相変わらずテレビに釘付けな背中にぴったりとくっつく。純情な彼をからかうようなその行為は彼の身体をビクリと跳ねさせた。
「よ、酔っ払いか!」
「いえいえ私はしらふだよ」
「ていうか、…む……む、」
「胸が当たってる?」
「だぁぁあぁ!」
振り返った顔がボッと真っ赤になっては可愛さを増す。
堪らずにキスをしようと迫った瞬間、リモコンを投げ捨てる音。
「あ、」
「限界」
「、ちょっ」
「誘ったお前が悪い」
どさり、とベッドに雪崩れる音を聞きながら、予想外を演じつつも見通していたとは到底言えることではないが。
込み上げる幸せを悟られぬように小さく笑って口付けた。
「つまりスケベだ、ってこっだよ」
「はぁ?」
「陸らしさ、の話」
「…」
(090601)
黙ってしまうということは、つまり彼とてただの男に過ぎぬのだ。