sleep.07

□レイシズムに涙
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(久々知/落乱)

丸くなる背中を見つめながら、別に喪に伏しているわけじゃあないだろうと思う。
だからと言って、積極的に声を掛けられるような雰囲気でもないことは重々承知の上ではある。
しかし今回の件に関してはあれ程の敵襲に対して死亡者を出すこともなかったし。自分ならばそう上手くいくこともないと知っているので敬意すら感じていた。
ただ一人、傷を負って帰って来た彼女以外では、の話だが。


「善法寺先輩、あいつは、無事…なんでしょうか?」

「心配しなくても死にはしていないよ」

「俺が、もう少し強ければ」

「そんな無理しなくたって彼女は大丈夫だよ」

次第に強ばり始める肩に手を置いて、大丈夫だから、ともう一度念を押す。
途端に脆くも応える声が震えるそれに変わってしまったので思わずとも昔の自分を重ねてしまった。

初めての実践なのだからと慰めるにも伝わるかどうかは微妙な所であるし場違いにも感じる。
目の前で仲間が射られる瞬間を目にするのは。この年端ではあまりにも、重荷だ。
そしてそれが想いを寄せ続けていた相手ならばなおさら。
同時にそれは自身を自虐に追い込む要因にすら成り得るのだ。

まるで、かつての我が身の如く。





「護ろうとしたんです、あの時」

「知ってるさ」

言おうとしていることは考えずとも理解が出来た。
しかし、そうやって見えない深傷を抱えながら明るく努めるのだってもう少し遅くとも良かったではないか。そのうち嫌でも背負う羽目になるのだから。
何を思うにも何を言うにも、その灰色の目に光を呼び戻すのは私でなくて彼女の役目なのだ。
無事であったことが彼にとっての何よりの救いだと今更ながら再認した。

「ですが、」

「ん?」

「弱いのは今だけです、これからは死に物狂いにだってなってやります」

「しかしあまり無理をしては、」

「俺は、先輩に譲る気はないんですよ」

「えっと…つまり」

「彼女を」

「……なるほど」

どちらにしても脳裏に思い出される少年にはここまでの強さはなかったように思う。
他人に涙を見せることすら恐怖と見なしていたあの頃の自分は弱かった。今となったって何も変わらぬどころか情けなさが増しただけだ。
だったら不安になどならずとも彼の方がよっぽど。


「だけど、まだ、先輩には敵いそうにないですね」

「またそんなことを言って、私に世辞は利かないよ?」

「そんなんじゃないです。ただ、本当に、そう思っただけで…」

「、そうかい」

本気に取るつもりはさらさらないので笑って誤魔化すことにする。
詮索はして来ないものの苦いように顔を上げてこちらを見た彼は、皮肉にも今にだって泣き出してしまいそうだった。


(090608)
脆さだけで見るならば双方共に同等なのだが。


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