sleep.07

□過去形
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そんなのって見たことも聞いたこともないよ!

異議を申し立てるにも彼の中では既にこの話題は終わっているものと見なされているようで、別れも告げずに早々と新しい仲間の元に向かって踵を返す。
悔しさのあまりこちらへ向けられた背中に向かって蹴りを一発入れてやった。
細い身体の割には倒れずも、揺らぎもせず。ただただ黙ってこちらを静かに振り返るのみ。

世話を焼いてばかりの彼とは違うので私にはその目から呆れも怒りも読み取れはしない。
言うなれば無感情と言えようか。
しかしその彼だって目の前に横たわりながらも今ではただの亡骸だ。
本来ならばここらで襲い掛かるはずの悲しみさえ予想外の展開に邪魔をされて追い付いてはくれない。

泣ければ楽になれたであろうに。
そうさせようとしない彼は残酷だ。


「…」

「な、なによ…」

黙っていてはまるで悪いのが私のようではないか!またしても!
不器用なくせにこういうこと(無論、戦いの場では当たり前なのだが)に関しては自然体でゆるりと罪を逃れてゆくので非常に腹が立つ。

「ちょ…ちょっとくらい強いからって調子に乗らないでよねっ!」

「調子になど、乗ってはいない」

随分はっきりと答えを返すので、ビクリとしてしまう。
予想に反する物事は好きではないし得意でもない。
それに対して彼は。そう、いつだってそうだ、彼は自分の世界ばかりを生きていて。だから私は彼が苦手なのかもしれない。


「彼奴のことだが…」

「あいつって何、ヒョーゴのこと?」

「…」

「(話が進まない…)…で?」

「お前が、埋葬してやれ」

「はぁ?何で私が!」

そんなことアンタがやれば良いじゃない!だって、ヒョーゴを殺したのは…!
先程から気に障りっぱなしの彼に掴みかかってやろうと足を一歩前に進める。柄にすら手を掛ける。
大切だと信じてきた彼を相手にして。

が、しかしこれは、どう捉えれば良いものか。
初めてのことなので浮かぶ対処法も何もなくて困ってしまう。
せめて彼が此処にいてくれたならば、なんて。もういなくなってしまったのだから頼ったところで意味がないと解っているのに。
未だに依存してしまう自分が無性に苛つく。


「キュウ、ゾウ…?」

「…」

「!」

ゾワッと鳥肌が立ったのは気の所為なんかではなく。
少なくとも今まで見たことのない高揚を彼の赤い目に見て、それが私を捉えてしまったからだ。
殺気よりもタチの悪そうなそれが、もし、本当に私に矛先を向けたなら。どうしよう。というか、死……!!


「安心しろ、お前は連れて行かない」

「、え?」

「無駄に死ぬ必要もないだろう」

「あの、意味が、」

「だが、大切だとは、思っていた」

「?」



(あぁこれが愛、だったのか…そうか)
気付くにしてももはや過去形。
(090718)


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