彼女が風邪を引いた。それを知ったのは朝のホームルーム。
特に気にする事ではないと思ったが、教師の話が念仏のように思えるし目の前の席は空席だし。つまらなかったから早退して様子を見に来てやったのだと言えば間髪入れずに殴られた。いつもよりも強さが減少されてる事に気付いて妙に焦る。
「嘘だって」
「何が」
「本当は心配で来たんだよ」
まるで恋人にでもなったように髪を撫でてやる。照れて嫌がる彼女が愛しく思うが、しかし、これはきっと恋ではない。
けれども鏡に映る俺は恥ずかしくなる程に優しい顔をしていたのだ。
「…春が来たかもしれねぇ」
「まだ冬ですけど」
「そうじゃなくて、俺に」
言っておくがお前の所為だからな。
丸く見開かれた目には必死で照れを隠す俺が映る。
「冗談言わないで、今にもぶっ倒れそうなんだから」
「ぶっ倒れれば良いじゃねぇか」
「…は」
「俺が受け止めてやるから」
両手を広げてニヤリと笑って見せてやる。真っ赤になって馬鹿だ馬鹿だと呪文のように繰り返す彼女が意識を手放すまで、あと3秒。
(071114)
俺の腕に収まるまで、あと5秒。