無性に欲しくなったと言えば楽なのかもしれないが。生憎私にはそのような余裕はないので、沈黙を貫く事にしたのである。
「おい」
「…」
「今のは、アレか」
じりじりと歩み寄って来る彼が呆れた表情のまま頬を掻く。私はこの癖が照れ隠しである事を知っている。それを促したのが先程の自分の行為である事も。
「不安にさせたか」
「ほんの少しだけ、ね」
「…悪かったな」
「今は別にどうだって良いけど」
鍛えられた腰に手を回し出来るだけ強く力を込めた。彼は今此処にいる。ただそれだけで何も怖くなくなるのは彼への依存が強い証拠。今更、他を望んだりはしない。
「今日は随分と甘えただな」
「…嫌?」
「まさか」
くしゃりと撫でられた髪に落とされるキスはさり気なく、気付かない事だって少なくはない。だからこそ満たされているのかもしれないと思うのだから何て愛しいのだろうと、また私からキスを仕掛けた。先程同様、唇に。
「武蔵からも欲しい」
「暫く見ないうちに欲が深くなったか?」
「ううん寂しかった」
「……そうか」
(071119)
寂しかったのはお互い様。