sleep.03

□汚染
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限りなく広がる空に似合うのは己を汚しきってしまった色に思う。
幼い時はあれ程まで青い空を美しく感じられていたというのに月日が経つのは実に早い。
人の心情が移り行くのだってまるで空のように。
大体、もう幼い頃の事などほとんどが曖昧でぼやけた記憶でしかないのだ。今更言う事もない。

「早くしないと夕飯にあり付けなくなりますよ!」

「うんそうだね」

やや遠く、前方から振り返り私を呼ぶ顔は逆光で見えない。
三日掛かり任務を終えたばかりだというのに元気なものだ。
ついつい細まる目は決して眩しいわけではない。
絶えずこちらに向かって泥だらけの服で笑い掛ける。白い歯が幼さを残す。
しかしまだ汚れてはいないようである。実に結構。

ケラケラと笑うのもいまの内だ。思う存分にさせてやろうじゃあないか。
慕情よりも汚らしくなってしまった愛情をちらつかせてみる。
満足がいくのはいつも向こうばかりだ。
しかし残念な事に本物の愛とやらは遠く昔に喪失させてしまったらしい。
それは任務だったかもしれないし、はたまた単なる戦だったかもしれない。
どちらにせよ戻れない事だけが共通している。

「お前はキレイだねぇ」

「なっ何を言いますか!」

「出来ればずっと死ぬまでそのままでいて欲しいけど、それも無理なのだろうよ。尤も今この瞬間にお前が死ねば叶う願いであるわけだが。嗚呼、嘆かわしい嘆かわしい」

ちょいちょいと手招きをすれば抵抗もせずに腕の中に収まる子供には愛しい以外にどのような表現方法があったろう。
落ちる髪を耳に掛けてやると少し照れたようにはにかまれた。
何にしても汚いだけの愛情である。

「…肉じゃかだったら嬉しいですねー」

「私は湯豆腐が良いなぁ」

先導するようにそっと繋がれた手に泣きたくなったなど。汚らわしい。
(しかし泣き方すら何処かに、)





(080318)


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