sleep.03

□裏返して捨てて
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気味が悪いと恐れおののかれるのは初めてでもないので、案外こんなものなのか、と人事にすら思える。
何を考えているのか解らない。
それは私を捨てていった男達に共通する言い訳なのだが、他人の考えが解る方がよほど気味が悪い、常識的にだってそうではないのか。


「憶測ですが、彼等は貴女に置いて行かれそうで不安だったのでは?」

「そうですかねぇ」

「現に私もたまにですが不安を感じる時がありますし」

「そ、それは初耳な…」

「そりゃあ初めて言いましたからそうでしょうね」

さらりさらりと吐かれる言葉は降り積もっては窒息を促す。仏顔の裏に隠していたのはまるで鬼じゃあないか、裏切られたとばかりに寄せた眉間の皺にすら仏顔。

「だったらヘイハチさんも私を捨てれば良いのです」

「お次は自暴自棄ですか面白いですね見ていて飽きない」

「いえ、そういう訳じゃ…」

「結構結構。実に救い甲斐があります」

笑い方がいつものそれであるので気違えてしまいそうだ。縋るように握り締めた裾が自分のものだとこうも容赦や手加減はないのか、伸びきっている。



「私の手で変わってゆく貴女が見たい」

「それはそれは大概に変態ですね」

「知らない事もまた罪であるとも言います」

理屈を並べて何になる。互いに溝を深め合って飛び越えられないと嘆くのはあまりにも愚かすぎる。
不可能を可能に変えようとしているのならば私達は幾分年を取りすぎた。叶わないものは愛しい、それだって嫌と言うほど実感だってした。だからもうこれ以上の苦しみなんて要らないのに。


「幸せになりましょう」

「この汚い世界で」

「今度は二人で幸せになりましょう」

そう言った彼は数分後、美しい最後を迎えた。






(080423)


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