sleep.03

□5days
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月曜日。
前日までの2連休が明ければ、朝は爽やかさを失い憂鬱なものに変わってしまう。週の始めはいつもそうだ。ジャンプの発売日じゃなかったら乗り越えられたもんじゃない。
きっちり予定が組まれていることは窮屈で仕方がない。それは社会人となった今でも変わりはなくて。
もっと人生は自由形で歩んでいきたいものだ、と思ってしまう。


「先生はあたしに進学して欲しいですか」

「…なに?お前、就職希望なの」

「ダメですか」

「いや、駄目ってことはないけど……なぁ」

社会人は大変だぞォ…と嘆いてみせたが実際の話、学生も社会人も単調な日常をひたすら繰り返す点においては双方に違いはないのだ。
その事実を受け止めているのもきっと俺よりも彼女の方だのだろうから、まぁ、判断能力に大人と子どもの差なんてあって無いようなものではないのか。なんて思ったり。思わなかったり。
そんなことを考えるよりも、今は問われた質問への返事を考えなくてはならないのだけど。

「お前さ、」

「はい」

「何で学校来てるの」

「……はぐらかさないで下さいよ」

質問に対して返されたのは、返事ではなく怪訝な表情だった。
いやいやはぐらかしているつもりは微塵もないんだけどさァ。
長くなりそうな話に茶でも出してやろうかと腰を浮かす。その動きの一つ一つに向けられた視線がチクリチクリと刺さるように痛い。
そういえば彼女の視線はよく俺に向けられる気がする、のだが。

「っつーか、何で俺の意見を聞くの」

「……」

「お前の進路はお前自身が決めるもんだろう?俺の意見なんて関係な……

ガタン!
瞬間、爆発でもしたかというような音を立てて彼女が座っていた椅子が倒れた。
椅子に向けていた視線を彼女に向ける。と、何故だか怒りを露にしているのでこれは穏やかではない。

「関係ないなんて言わないで下さい!」

話の途中で立ち上がる彼女に驚いて言葉が途切れた。正しくは、突然立ち上がった彼女の行動ではなく初めて聞く彼女の怒鳴り声にだが。
湯飲みを両手に突っ立つ俺の姿に、はっとした彼女がすみません…と今更しおらしく俯きながら椅子へと腰を落とした。
静寂。湯気が揺れる音すら聞こえるようだ。

「俺に……関係あることなの?」

「何でもないんです、忘れて下さい」

「いやいやいや待てよコラ」

「ごめんなさい、あたしが勝手に……」

凛としていた声が泣き声に近いそれになって震え出した。膝の上で握りしめられた小さな拳が、堪えきれないとばかりに見えない顔を覆う。
黒い髪から覗く耳は、赤い、……赤い?


「……(あ、れ?)」

こいつ、もしかして。
両手で包んだ顔を上げさせれば案の定、赤色は耳だけでなく顔全体を浸食していた。

「要するに、好きな奴の意見に左右されたいお年頃ってわけだ」

「……っ」

その考えを悪いだとか間違っているだとか責めるつもりはないが。
ただ、単調な日常に終止符を打つように。同意と肯定を含んだ微笑をはにかんだ俺は、少なくともそんな彼女を受け入れる準備は出来ていたのだ。



(坂田銀時/銀八先生)

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