sleep.03
□5days
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火曜日。
今日は何故だかいまいち授業に身が入らない。というものの、原因は斜め前ですやすやとあどけない寝顔をこちらに向けている彼女にあるのだということは解っている。
見渡したところ、現在このクラスの大半は呪文のような教師の解説から逃亡すべき安息の地を夢の中に見い出しているようだ。
そして残りの半分は漫画やゲームに勤しんでいるわけであって……。だから、こうして正面の席に座る男と同じ行動を起こすなど確率的にはあり得ないことなのだ。
第一、普段はまともに授業に出もしないくせに。どうして今日に限って出てくるのだ。
「ジロジロと見るな、気分が悪い」
「見たくて見てるわけじゃねーよ」
いつから視線に気付いていたのか。流し目でこちらを一瞥するなり友好的とは到底言い難い言葉を吐き出す。
前々からいけ好かない奴だとは思ってはいたが、ここまで嫌な奴だとは。
「…お前バカだろ」
「ぁあん?」
「俺の話じゃねぇっつーの」
「は?」
「あいつをジロジロ見るな、と言っているんだ」
「、っ!」
後ろ目には気付かないとでも思ったか?
くくくっと喉で笑う姿が様になっていてムカつく。
お前のそういう所が、何気ない一言が図星を突くその鋭さが、俺は何よりも嫌いなんだ!あぁぁくそっ!腹立たしい!
「一応言っておくが」
「…何だよ」
「惚れてるのは何もお前だけじゃないからな」
「ふっ、ざけんな!」
ニタリと笑う顔を見ながら、あぁこいつはどれだけ笑い方が豊富なんだなどと検討違いな感想が浮かんだ。
カツカツと響き始めた音に、男の目が白い文字が並ぶ黒板に向いた。意識が彼女から逸れたことに安堵を覚えるも束の間、なんということだ。
「間違っても、俺に勝てるなんて思い上がるなよ」
背を向けたままの体勢で、中指を立てた左手が見せつけられた。
(トラファルガー・ロー)
「テメェ…この野郎!いい加減にしやがれ!」
「いい加減にするのはお前だユースタス!」
すっこーん!と額を目掛けて飛んできたチョークを受けて後方に倒れると同時に、楽しそうに笑う憎たらしい口元と寝ぼけ眼を擦る彼女が見えた。