sleep.03
□5days
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水曜日。
一週間の折り返し地点でもあるその曜日は、中だるみの2年生という格言よろしく生徒の気が一番たるむ時期である。
よって此処に、抜き打ちの持ち物検査を行うこととする。
「そーいうあんたは何で免除されてんのよ」
「俺は良いんだよ、生徒会長様だからな」
「職権乱用、ダメ絶対!」
「御託はいいから早く鞄の中見せろっつーの」
言葉に上品さがなくとも生徒会長には就けるらしい。
しかし残念なのは、この偉そうな態度が立場上のものではなく生来的なものであることだ。彼の幼い頃を知る私から見てもそれは断言できる。はっきりと。
「漫画は没収だな」
「あ、ちょっ!勝手に漁るなアーサー!」
「しかも3冊」
「勘弁してよ、これ借りてるやつなんだから!」
言い訳は聞かないとばかりに耳を貸さない横暴な我らが生徒会長に舌を打つ。
振り向き様にニヤリと向けられた笑みが腹立たしい。だけど最後には甘さを見せるのだ。それを熟知してしまっているから未だにこうして離れられないのかもしれない。彼は、そう、彼はいつだってそうだ。
「あと、これもか」
「うげ…まだ没収されるの?」
形の良い骨格が浮かぶ指が、私の鞄からヒョイっと化粧ポーチを取り出す。近くの机にそっとポーチを置く手付きに丁重さが見えるのは、さすが紳士を宣言しているだけあると言える。
「お前、学校規則って知ってるか?」
「何それ美味しいの」
「……ばかやろ」
呆れをため息に含んで胸のポケットから生徒手帳を取り出す彼は、パラパラとページを少し捲り、おもむろに私の目前に差し出した。
学校規則第二項十六条、学生の化粧及び過度な装飾を禁ずる……。
「分かったら明日から素っぴんで来い」
「い…いやだ!無理無理、無理です!」
「どーして?」
ど、どうしてと言われると……困ってしまう。
理由がないことはないが、相手が悪いというか気恥ずかしいというか。何と言うか。
「かっ、わいくなくなるじゃん…」
「は?元からだろ?」
「う…っ!」
「冗談だよ」
お前にも綺麗に見せたい相手なんているんだなあ、としみじみと呟く口調は幼馴染みのものというには些か刺があるようだ。
いつの間にか私の知らない彼が現れたように、彼が知らない私もいるのだろう。いつも一緒にいたはずなのに。
だけど知らないことを腹立たしいと感じる方がおかしなことなのだ。普通は。
ふと覗き見た彼の目が、異常なまでに優しいことに気付く。
まるで愛しいとでも言われているような。生温いお湯に浸るようなもどかしい錯覚。
「素っぴんでもお前は可愛いよ」
「え、なに?アーサー頭でも打った?」
「何年も隣で見てきたんだ、俺が保証する」
柔らかく手に両手を添えてじっと見つめる瞳は燃えているようだ。見間違いではない。
しかし嬉しさもさることながら、その相手があんだだなんて今更言えるような雰囲気でもないのは。あぁどうするべきか。
(アーサー・カークランド)
そして、どうか、優しく押し付けられた唇は互いに同じ気持ちであれば良い。