100%
□前方不注意
1ページ/1ページ
これは一体何事だ。
雪崩のように舞うプリントの中で武蔵は思った。
教室を出ればプリント運びを任されて挙げ句の果てにはぶちまけるなどと。今日は散々についてない。
ちらりと頭が朝の星座占いを思い出す。
そういえば最下位だった。信じてはいないが。そうだ最下位だった。
「きゃー」
「うおっ」
がつんと全速力で正面衝突とは迷惑も良いところ。
相手が俺であって良かったと思え危ない奴め。
散らばった紙に溜め息を吐きながら、そして心中で悪態吐きながら武蔵はゆっくりと身体を起こした。
大体ここは廊下だ。走るべからずとご丁寧にポスターにだって記してあるではないか。
「いったー」
「…大丈夫か?」
手を差し伸べると縋るように握り返された。小さい、女の手。
不謹慎ながら、ごくりと武蔵の喉が鳴る。
じわり、手が汗ばんだ。
目を奪われたのは晒け出された白い太股ではなく、もう片方に握り締められている黒い傘。
はて、これはどこかで見たことのあるような。
「元気が良いのは悪くないが…」
「す、みません」
立ち上がらせるとスカートが翻ったので思わず顔を逸す。
しまった、今度こそ白い太股が脳裏に焼き付いてしまったようだ。柄にもなくどきりとしてしまうのはさしずめ俺もただの男ということか。
しかしだからといって呑気にそう自己分析すらしているので、何もそこまでの危険性もない。
「おい!テメェ十文字がどうとか言ってた……な…」
「「あ、」」
前方から駆けてくる足音。
何故ここに、蛭魔。
重なった声に、え?何知り合い?と疑問符を浮かべて目を見開く少女。
悪友というやつだ。気にするなとでも言っておこう。
「…十文字?」
「うん、はい、じゅう君」
借りっぱなしで、と掲げた傘は先程の黒。
なるほどな。そうかそうだ何処かで見覚えがあると思ったら。
思い出した途端に飛び出して行きやがって。呆れて苛立つ蛭魔が言ったのでどうやら二人は先ほどまで会っていたらしい。察した。恐らく場所は部室だということまで。
「まだ部活行ってなかったのか、十文字の奴」
「…珍しくな」
言いながらちらりと彼女を見下ろす蛭魔の目線に真相を理解した気がした。
これはさすがの蛭魔も手を焼くわけだな。
むしろ奴だからこそ処理し難い問題であるようにも思う。
是非この目で見たかったものだ。惜しいことをした。
「教室」
「はい?」
「いるんじゃねぇのか」
「……じゅう君が?」
「他に誰がいるっていうんだ」
あ、ありがとうございましたー!
ぱっと一瞬にして明るい笑顔。駆けていく彼女の後ろ姿を見送ればふわり、再び翻るスカート。垣間見た白。
焦ってまたプリントを落としそうになった。
これぞ青春か。
隣から溜め息が漏れる音が聞こえたのでバレたのかとひやりと肝が冷えたがそういう意味ではなかったらしい。何しろ視線がこちらに向かっていない。
「お疲れだな、蛭魔」
「だからこういうのは苦手なんだ…」
(080720)
しかし後輩の手助けも先輩の役目であるわけで。
(ていうかアイツ、じゅう君って呼ばれてたな…。)