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□また戻って来れたなら
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「ラーメンでも食いに行くか…」

練習が終わって消灯も済んだ部室。残っているのは私と着替え中のじゅう君と。此処で飼われているであろう犬と子豚のみ。
なのでぽつりと呟かれた言葉はどうやら私に投げられているらしい。まさか豚に話かけるほど落ちぶれちゃいないだろう。


「わ、私はチャーシューメンが好きだよ!」

何を言っているんだ私の馬鹿。
咄嗟の返事に示されたのは眉間の深い皺と呆れの混ざる眼光。食事中の二匹も何故だかこちらを見上げたまま食事を再開する気配がないらしい。
馬鹿にするのは自由ですけど言葉のキャッチボールは苦手なんです本当に!
不良あがりの彼はどう見てもガン付けているようにしか見えないので対象のしようがないというか。け、喧嘩とかになったらどうすれば…!

「俺は」

「ひぃっ!」

「味噌が、好きだな」

デッドボールよろしく軌道を反れたそれすらも拾い上げてくれるのは生まれ持った優しさかもしれない。
着替え終わったのかバッグのファスナーが閉まる音。コンクリートで出来た部室にはよく響く。


急がないと夕飯時になるからと差し伸べられた手を掴む。
満足気な笑顔に、そうだ最近の彼はよく笑うのだと応援中に浮かんだ思考が呼び起こされる。
見ていられないな、と言うようにしていつの間にか食事を再開していた二匹にさよならを告げて部室を後にした。
此処にはまた来られたら良いと思う。


「良い人達だったね」

「銃を連射して来なければ、な」

「蛭魔さんのアレはもう仕方ないって」

「はっ」

少し意地の悪そうにつり上げられた片眉。ゆっくりと弧を描く口元。
こういう風にも笑うんだ。思わず握られる手に力が入った。
嫌いになんてなれるはずがない。そうなる要素が見当たらないし探せば魅力しか見えては来ない。
それならばそうだ、好きになれば良い。この人を。
順番は間違えたかもしれないけれど、確実に、好きになれる。絶対に。


「私は、何でじゅう君が楽しそうに笑うのか、解った気がするよ」

まもりさんに言ったら笑われてしまったけど。というかその理由も、解ったものじゃないんだけど。
それを言えば今度は力を入れられる側に回された。
弧を描いていた口元は一文字に結ばれているが何に堪えているのかはきっと私には知れないことだ。
しかし彼の匂いがやけに近い。声だってこんなにはっきりと。

「少しだけど、じゅう君のことが知れて良かった」

「そうか」

「だから今日はありがとう」

「また、見に来いよ」

「うん」



(081107)
ムードもなく再び雨。


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