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□名前×2
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見間違え、だろうか。
登校中。ばったりと出くわした奴の手に握られた傘の柄に違和感を感じた。いくら見入ってもそれは雨を弾くばかりで。一体何がおかしいのか。

「オッサン」

「…手に、」

「あ?」

「いや何でもない」

ぼーっとしてるのは構わないけど遅れるぜ。
ぶっきらぼうではあるが然り気ない気配りができる奴だ、と思う。
要は心配性なのだ。他人に関してのみ。
しかしそうして周りに振り回されながらも自分自身が流されるということがない。そういう苦労人な気質は自身によく似ているようにも思えてならない。
だからこそその苦労も身を持って理解できるのだ。そうだ、奴は俺に似ている。

「おい、マジで大丈夫かよオッサン」

「オッサンってなぁ…一応お前と一つしか変わらないはずなんだが…」

「年じゃねぇよ、そりゃあ顔の問題だ」

言い切った途端にけらけらと笑う。
こういう笑いは初めて見た。その姿は強がりをみせていてもまるで少年ではないか。(これも彼女のおかげだろう、恐らく。)

ふと目を先ほど興味を引かれた傘に向ける。やはり違和感。

「十文字、やっぱりその傘何か…」

「な、何でもねぇよっ」

しかしその反応からして何でもないことはないだろう。予想以上の事態にニヤリと笑ってやる。嘘が下手だなと言いもしてやる。
しかし奴が隠したその瞬間、傘の柄に並んで書かれた名前二つを見たのでもう詮索はしないことにしようではないか。


「……若いな」

「その発言自体が老けてんだよ」

また笑う。実に若い。



(090527)


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