sleep.04
□少年よ、冒涜をやめろ
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定期的に顔を見せる彼はこれといって負傷している様子もない。そのくせ救護班へ足を運んで来るので、つまりは冷やかしかとも思ったが危害を加えるつもりもないらしいので放っておく。
それにしたって戦場に赴くには若すぎる気も拭えないのだが。
「左手が痛むのです」
やけに整った顔が初めて語り掛けた言葉はやはり戦にのみ関連性を持っていた。
見せてみなさいなと身体を近付けると一瞬だけ震えてみせる。まだ若い。
「どうか目を逸らさないで下さい」
「は、い?」
生まれ持った生の右手が少し弄れば簡単に地に落ちる左手。ガチャリと機械の音がしたので彼までもが時代に身を捧げたのかと不安がよぎる。
「義手は初めて見ますか」
しかし何食わぬ顔でさらりと言って退けるので実に現実味がない。衝撃にしては強すぎる気も。
だが、冗談にしては出来すぎているしたちも悪い。
「何分そのままでは不便な点が多く思えまして」
「はぁ」
「いっその事切ってしまっただけの事です」
「そう、ですか」
さぁさ早く痛み止めを打っちゃあくれませんか。
言い放つ明るさは悟りまで到達した事のあるように穏やかな部分がある。
彼はまだ子供であるという憶測は誤解であったか。
迫る自身への屈辱に唇を噛み締めれば嗅ぎ慣れた鉄の匂いが脳を刺す。ぽたりと落ちるのは赤、赤、赤。
「これはまた随分と卑らしいですねぇ」
「いえ、これはただの血です」
「ですが貴女の体液には変わりない」
「…狂いましたか」
「羨ましいだけです」
出そうにも出せないので、と見せ付けられのはやはり左手。
嗚呼、無情。
(080628)
それが勲章だと思っているのならばやはり彼は若すぎたのだ。