sleep.04
□和様式ルーベンス
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「お慕い申し上げます」
「…頭でも打ったのか?」
部室のドアを開けるなり目の前で付かれる三つ指。
お前それって時代劇とかでやるやつ…。
「何処からそんな知恵を付けて来たんだ」
「や、キッドさんが陸はおしとやかな女の子が好きだよって言うからさ」
やってみました。
気落ちするほど真顔で言い切る彼女。
こんなにも本気なのに、あの人はまた思い付きなデタラメを吹き込むのだから可哀想だと同情心が芽生える。(大体キッドさんは俺がコイツを好きなことを知っているから、自分が楽しむ為にからかっているに過ぎないんだ。たちが悪い!)
「あー…のさ、」
「なぁに?」
「そんな事しなくても、な」
「うん?」
「…」
「…」
「やっぱ何でもない」
肝心な所で逃げ腰になるのは悪い癖だ。情っけない。
いつか振り向かせてみせるんだからね、と張り切っている彼女に。もしこの心境をありのままに伝えられたならと思う。
とびっきりの笑顔で微笑んでくれるのだろうか。(いや、それ以前から彼女はいつもとびっきりの笑顔でぶつかって来ているのだけど。)
「まぁ、今度言うから」
「えー気になるー」
「絶対に言うから」
「んー」
お前が喜ぶような話だよと付け足して、笑ってみる。そういえば俺から笑うなんてのは初めてかもしれない。
でも少しだけ自信が足りないのだ。
打ち明けられるその時まで彼女が飽きずに俺を追いかけてくれる保障はない。
「取り敢えず、今日は送ってやるよ」
「わーい!」
「外が暗いから送るんだからな。勘違いするなよ」
「へへっ」
(080628)
駆け引きとは誠に困難な術である。