sleep.04
□お前は馬鹿か!
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山のような本で埋め尽くされた部屋の一角に投げ出された二本の足。
見てはいけないものを見た気がした。
心臓の音が煩くて、それから少し、きりきりと痛い。
内側から刺すようなそれは恐怖心だ。何故なら脳内でこれは危険だという伝達が行われているから。
赤く点滅した電気信号が休むことなく身体を駆ける。危ない、それは危ないぞ。近付くな。
「…見せ物じゃないんだけど」
すらりと動いた足は切断されていた様子もなく、少女の声と共に周りの山を崩した。
「痛っ」
「だ、大丈夫か」
雪崩れ込んだ大量の本をまともに受け止めた彼女。白い手が天井に向かって伸ばされているので掴み取って引いてやる。
まるで収穫作業だ。ここは畑じゃない。
「死ぬかと思った…」
「まず言うべきはありがとうじゃないのか」
「…」
「何だ」
打った頭を擦りながらこちらを睨み、事もあろうに性格が悪いと吐き捨てた。この女…!
「助けてやった礼は要らない。さっさと立ち去れ」
「いや最初からそんなものくれてやる気はないですからぁ、君ひねくれてるし」
だから立ち去ってなんかやるものか。
返る言葉の節々に挑発が見えるので喧嘩をしたいのかと思う。そうなればくのいちが相手であろうと容赦のない自分が有利な立場になる。(はずだ。)
それに私は優秀なのだから。負けるはずなど、ない。
言い切れる程の自信は実践でも実証済みであるので確かなものだと言えよう。(たぶん、恐らくは。)
「まさかお前、立花仙蔵の名を聞いたことがないのか」
「はい?何それ、どこの盗賊?」
ぬけぬけと…!
減らぬのはこの口かと左右に頬を引っ張ってやれば同じようなことを同じような強さで返された。
引かない奴だ。私も彼女も敗けを知らない故に。
そう思ったのは彼女があまりにも喧嘩慣れをしていたからなのだが。
確かに下手をすれば伊作よりも、
…いや、この先は言わないでおこう。
「ほんひゃにへほあへるなんへさいへーら!」
「何を言っているのかさっぱり解らん」
日本語を話せ、日本語を。
ぱっと手を放すと途端に散弾銃のような言葉が聴覚を襲った。
ちなみに先程は、女に手を出すなんて最低だ!と言っていたらしいが、私の中での女とは淑やかで慎ましく決して猿のように野蛮ではないのでこれは何かの間違いではないか。
その旨を言えば顔面に爪を立てられた。本当に猿のように思えてならない。
かくなる上は野生動物駆除隊を。(そう言えば動物愛護団体に訴えるからな、とまた暴れられた。)
「女ならば暴れるな!はしたない!」
「そっちこそ男なら女に手を上げるなっての……ぎゃー!それは止めろパンツ見える!」
「な…っ」
無意識に握っていたのは赤い着物の裾。
け、決してそんな気はないぞ…!言い訳はするが済まないという言葉が喉を通る事はない。今まで不自由なく出来ていた彼女を見るという単純な行為すらもできなくなっている。
慣れない。というかこんな事は初めてだったりするわけで。
ぎりり。胃が痛む。
「出てけ!」
「うわっ」
見れないことを良いことに背中に蹴りを入れられた。蹴りじゃなく押されただけかもしれなかったが強かったので蹴られたことにしておく。
追い出された資料室からは物凄い破壊音が響いているようだが。手伝わないからな。
意地でも今の彼女に手を貸すつもりなどない。それに鍵も閉められた。
「…、仙蔵くーん」
しばらくして聞こえた声。ゆっくりと開かれた入口。
友達だよねぇと虫の良い言葉はこの際聞かなかったことにしてやるから情けない顔をするな。
(080721)