sleep.04

□腹切りジャック
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自分の存在価値を問う必要なんて此処にはないのだから、もっと自信を持たなくてはな。
そう言いながら全蔵が珍しく、腰を曲げて目線を合わせてくれるという優しさを見せた。
おかげで少し感動した深夜2時の任務帰り。


「…何でそんなこと言うの」

「んーちょっとした忠告?」

「は?」

へらりと口元で笑う彼にわけが解らない、と首を傾げた。
自分に自信が無いなどと、思ったことはあっても口にしたことは無い、はずだったのに。少なくともコイツには一度だって。

「だってお前さ、もし俺が死んだらおかしくなっちまうだろ」

「まぁ、仲間だからねぇ」

ドクリ。心臓が大きく脈打った。胃がヒュっと一瞬にして冷えたのも解る。
突如として襲うこの感覚は何度繰り返しても好きにはなれない。
確信。たぶん一生掛かっても。
冷静を返したつもりだった声も震えて聞こえたので不安だ。

「忍び失格だな、お前」

「良い年こいてジャンプ離れ出来ない奴に言われたかないよ」

「……はっ」

どうやら反論の余地なしである。
バツが悪そうに頭を掻きながら振り向いた全蔵。(鼻で笑って見せたのは悪あがきだと思う。)

人を殺した帰りだと言うのに余りにも平和ボケな雰囲気に、どちらともなく顔を見合わせて笑った。
やはり平和ボケ。
しかしこのままずっと、何てのは所詮はお伽噺なわけで。ハッピーエンドも夢も希望も慈悲もないのが現実である。


「…全蔵は」

「ん?」

「仲間が死んだら泣かないの」

「…」

暫くの沈黙の後、というより泣けないんだろうなぁ、と自嘲に満ちた声が聞こえた。
いや、そうなれたら良いんだろうけどさ。俺にはもう無理だわ。こんなに汚れてんだもん。

向けられた手のひらは血こそ付いていないものの、やはり人を殺めたそれだった。
刀の使い方を、くないの握り加減を、手裏剣の扱い方を、染み付けるほどに覚えた結果だ。
奪ったものだってもはや彼一人が償うには重すぎる量になってしまった。
しかし後には引けないのだ。おまけに戻れもしない。


「お前にはキレイでいて欲しかったんだがなぁ…」


再び背を向けて歩き出した彼。背中は丸まっているようだった。
それから静かに目元を覆った右手。
あれは微かに、しかし確かに。雫を落として震えていた。





拝見、顔すら知らぬ御両親様。今夜私は初めて人を殺めました。


(汚いと呼ぶには足りない彼は、綺麗になるにも遅すぎたのだ。)

080724


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