sleep.04
□転校する彼女と残された俺
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あんたなんか、しらないんだから。
拳を震わせる彼女。突き放すようにも見えた。しかし泣いているようにも見える。
じわりと濡れた目。見据えると零れ落ちてしまった水滴。
何見てるのよ。それはこちらの台詞だ。
しかしこれらを見て見ぬ振りなど出来やしない。とても。
あまりの痛々しさに、しまい込むように腕に収めると思いのほか小さいので。守ってやらなければ、などと柄にもなく思う。
だけど俺じゃなくたってそれは成り立つのだ。
妬けるだなんてらしくないから言わないが。
「ちょ、離して」
「離さねぇ」
「や、だ!」
「やだじゃねぇ」
もがく手足は小さく、細く。手加減なんて女の扱いに慣れているわけでもないし出来るもんか馬鹿野郎。
赤くなった腕に気付いた時でさえ痛がる素振りもなかったし。解りづらいほど彼女は強がりだ。
「あのなぁ…少しは弱い所見せねぇと可愛くないぞ」
「別に、可愛くなくていいもんね」
「お前、いい加減素直に……っ!」
しまった不覚だ。
腰に回された腕にどきっとして煩い心音。見下ろせば縋るような姿。
こんなに弱い奴だったなんて、まさか。このまま抱き締めたら壊れるんじゃないかなんて。まさか、
「あ…べっ」
「なに」
「あんたなんか嫌いっ」
「さっきも聞いた」
「…たれ目」
「うるせぇ」
「嫌いっ」
「……あの、さ」
「っ!」
「俺は、嫌いじゃないんだけど」
だけど十年後にまた、なんて約束ができるほど素直でもないし。かといって泣いてやれるほど感情的にもなれないのだ。
突き放すにしてもこればかりは。
(おお振り/阿部)