sleep.05
□今はこれだけで満足です
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すぅ、とした涼しさが指先に走る。一瞬。
後を追うように滲み出る赤。舌を近付けると鉄の味がしてようやく痛みも追い付く。
少しではあるが本の端を汚してしまった。
申し訳なくて当番であるきり丸くんにそれを申し出れば何故だか咎めよりも保健室へ行くことを強く優先される。
たかがこんなに小さな傷でそんな。
冗談だろうと笑って流すにも彼は真面目な顔をしていた。行かなければもう二度と借りさせないとも脅す。
「少し痛むかもしれないけど」
「大丈夫、です」
「我慢してね」
じわりと消毒薬が鼻をつく匂いを充満させながら傷口に染み入っていく。
ぴりっとした痛みに眉をしかめると。ごめんね。何故だか謝られた。
こちらこそ、こんな傷で消毒なんて申し訳ないです。いやいや何をそんなことは気にせずに。しかし、そんな。いいえ良いのです。
へりくだるのが常であるので互いに引けずじまい。同じ六年生でもこうも違いがあるものだなぁと思うが、しかし比べる対象が会計委員長の潮江先輩だったので。その時点で間違えじゃないか。あのテンションの高さには誰も付いては行けまい。
「それはそうと図書室から来たのかぃ?」
「あ、はい」
「すると此処に君を寄越したのはきり丸くんかな」
「!」
「やっぱり…」
参ったなぁと呟く。
困笑。しかしその意図は解らない。
自分が余計なことを言ったからこうなったとも言う、が。
「い、意味が…よく」
「解らなくて良いんだよ、まだ時間はあるんだから」
しかし教える気もないのだろう。
(080802)