sleep.05

□ワイン片手にチョコレート
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「頭がくらくらとするんれすよー」

呂律が回っていない。
何処となく眼も虚ろに見える。

「あちゃー、そりゃ風邪かもしれないねぇ」

あまりにも頼りない口調なので、少し失礼、と額に手を宛がう。
38度はあるだろうか。なかなかに熱い。

「何か食べたいものは?」

「…プリン」

「それはお菓子じゃないの」

取り敢えず水だ、水分が足りないんだね。
差し出したコップの水をコクリという音と共に体内に流し込む彼女。
喉が小さく上下に動いたのを確認して毛布を肩までかけ直してやると、お母さんみたい。弱々しく呟いた。

「お母さん、か…」

「じゃあお父さんですか」

「いや本当は旦那さんが良いんだけどねぇ」

「……ゴホゴホッ」

「いや、無理して誤魔化さなくても良いよ」

とにかく熱を下げなければ。
ちょっと待っててね、と言い残して冷蔵庫をあされば探し物はすぐに目についた。


「わーキッドさんごめんなさい、水こぼした!」

「あらら」

目を離した隙にこれだ。オプションに溜め息。
飲もうとしたら手が滑って。言い訳をする彼女の胸元はべったりと染みができてしまっている。
濡れたのがシャツだけではないようなので必然的に透けてしまったそれは見なかったことに、しよう。
手を出すには忍びない。何よりそういうことは病人相手ではあまりにも酷すぎるし反道徳的だ。
悪化しては大変だからと服を脱がしにかかれば、ぴしゃりと手に鋭い痛み。
それなりにでも元気はあるようだ。威勢はなかなか。

「へんたい!」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃ…」

なかった、とはこの状況では言い切り難い。しかし苦笑いで切り抜けるのはお手のものなので更に彼女の怒りに触れることはないようだ。
開封したばかりの冷却シートをそっと額に貼り付けてやる。
気持ちが良かったのか猫のように目を閉じてしまった。それもこちらを向いたまま、なんて、まぁ無防備な。

「下着の引き出し開けるけど、良いね」

「…うん、ありがとう、ごめんなさい」

なぁに気にするようなことじゃあない。それに早く帰ってきてもらわなければ陸のあの狼狽えぶりは尋常なものではないのだ。

「君に早く元気になって欲しいだけだよ」

「…キッドさん」

「だから今は大人しく………あ、」

「ぎゃあっ!」

掴み取った右手。赤面する彼女に思わず掌で口元を隠した。照れるだなんて、柄じゃあないのに。


(080823)
だけど赤なんていつ使うつもりだったの…。


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