sleep.05
□恋文スノーホワイト
1ページ/1ページ
絡んだ指は即座に離れていった。
期待をしていたわけじゃあない。彼がどういう反応を返すかなんて最初から解っていたことだった。
そうだ、これはただの気まぐれ。
目の前に手があったから。触れた理由を述べるのならばそう言う他ないし、それが事実でもある。
ただ、おぁわぁぁ!だったか、どっわぁぁ!だったかよく解らない奇声を発して後ろに飛び退いていった幼なじみにそれを言ってみたところでこの言い訳は通用しないように思う。
彼は今時珍しく頭が固く。言い換えれば硬派とも言える。
そんな元不良なのだ。
「ごめん悪かったから、こっちおいでよ」
「ななな何を今…お前!」
あり得ないコイツ!とばかりに目を見開いたのを確認すれば。更に彼は2、3メートルの距離をひょいっと跳んでゆく。
無論、後ろにだ。
少なくとも高校生で。しかも性別的には男なのだからこの程度でこの反応は些か不味いのではないだろうか。
この点においては将来的にも不安を感じずにはいられないので。基本がしっかり者であろうと、実は女の子にモテていようと、校内順位が意外にも好成績であろうと幼なじみとしては幾分心配なのである。
「じゅう君はさ、女を知らなすぎるんだと思う」
「ばっか!んなエロイこと女が口にするんじゃねぇよ!」
「…、いやいや」
今の発言の何処にエロスが垣間見えていたのか、と問えば顔を真っ赤にして俯いてしまう。度が過ぎる純粋さには理解が不能だ。解らない。
「うっわ!顔、真っ赤だし」
「あ…あっち向いてろ…っ」
覗き込むと耳まで赤く染め上げているので思わず小さく、くすりと笑ってしまう。
不良の威厳などと雄々しいものは微塵もなく。というか情けなくも目が潤み始めた彼。
こちらを睨む表情すら可愛く思えてきたなどとは本人には言えない。
だが、拗ねるように尖らせられた口。眉間にぐいっと寄せられた皺。これはあまりにも。かわいい。
あまりにも見入っていたがばかりに、見るんじゃねぇと赤くなった顔を見られまいと首を逸らす。
不良であったという面影を残す黄色い短髪が。ゆらり。小さく揺れた。
しかし触れたい気持ちも先ほどのことがあるし、それに二の舞は後免だ。
よって選択肢は自重。その他の余儀はない。
「あ、でもいっその事ショック療法って手もあるんだよね」
「いやいや待て…「取り敢えずキスしてみようか」
「……ちょ…っ!!」
触れたい理由は好きだから、とか。(そんな簡単なことに気付かない私。)
(080916)
おおお俺は白雪姫か…っ!
あたふた十文字。