sleep.05
□我が愛しのギニョールよ
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クリッとした黒。
その表現が何よりも正しい丸い目がこちらを向く。
思わず手を引いて腕の中に閉じ込めてしまうが。反射的なことだ、悪気はない。
「び、っくりしたー」
「悪い悪い」
笑いながら反省を言えば本気で思ってはいないのでしょう、と。いやはや鋭い指摘が返る。
しかしながら腕からの逃亡を試みないことには安心しかない。
嫌われているわけではないようだ。
付き合っている時点で好かれていないとおかしい話ではあるのだが。
「もっと強くぎゅーってしてよ」
「駄目だ」
「ケチ!」
「そう言うな、加減が出来そうにない」
「かげん?」
意味が解らないといった様子で首を傾げられる。それもそうだ。
本音を述べてしまうが、時々ではあるのだが気持ちが体内のみには留まらず、思わず彼女を抱き潰してしまいそうになる時がある。多々。
この突発的な願望こそ、つまりは狂愛に近い。のだとも思う。
しかし言ったところで潰してくれても別段と構いはしないのにと笑う彼女。
正気の沙汰ではない。
もしかしたら冗談だと思っているのか。しかし本気と知っての笑顔ならばどうしてくれよう。
愛しさ余って頬に唇を寄せるとくすぐったさ故か、彼女の身がすくむ。おまけに目は眠気に襲われている猫のように細く閉じられているではないか。
これは、些か無防備が、すぎる。
「誘ってんのか…」
「そういう武蔵はヨクジョーしてるでしょ」
「誰の所為だ、誰の」
機会を逃すまいと頬に落としたそれを赤い唇に与えること数回。
その度に気持ちが良さそうな声色で名前を呼ばれるのだから。嗚呼何とも堪らなく、幸福。興奮。高揚。
俺も所詮はただの男だったわけか。
今更ながらの確信。しかしそれも悪いことではない。
「お前は、猫みたいだな」
「え?にゃんこ?」
「……、にゃんこ」
その響きがいけない。
きゅん、とした痛みが心地よく感じたのには驚いた。が、俺には別にマゾヒズムの傾向はないし、むしろあっても気持ちが悪い。
それにたかが猫の言い方の違いではないか。
後は五十音同士の響き方の問題であって。
ぐるぐると錯乱し始めた脳は止まる気配を見せてはくれないようで参ってしまう。
そのうち的外れなことを口走ってしまいそうでならないのも少し不安だ。
しかしどうにもこうにも胸がときめいてしまったのは事実。もはや顔に似合わないと笑ってくれても構わないほど。
どうしてこうも愛しいのか、なにゆえか。
解らないこと事態すら愛しいのは。
考え出せば時間も理由もきりがない。
我が愛しのギニョールよ
「にゃんこ、か…」
「まだ言ってるの」
(081031)
3萬打記念。
ありがとう、ありがとう、愛してる。