sleep.05

□馬鹿になれ
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痛くないよ。痛くない。
いくら言い聞かせても痛むものは痛むのだが。しかしそれは私の神経や脳味噌がまだ正常な働きを保っているからこそ。
爆風は止んだ。
私は、大丈夫、まだ生きている。
彼は解らないけど。生きていれば良い。

ここで初めてぱっくりと切れた皮膚。そこから赤ですらない血がドクドクと溢れ出るのを目で確認した。
恐らく助からない。深すぎる、これは。
あの時しくじったのがいけないんだ。
悔いても仕方ないので後ろは振り向かないことにしている。つまりは主義。
だから怖くないよ。死ぬことなんて。一瞬だから。
これはいつか私が銀時に言った言葉。(二度と言うんじゃねーって泣きながら怒られたけど。)

「俺より先に逝くなんて、相変わらず良い度胸してやがるぜ」

声が、した。
僅か数秒前の、ただの原っぱでしかなかったこの場所を見渡す。
確かにさっきまで隣で聞いていたあの声だった。そして探していた、あの声。
私の耳が、脳が。おかしくなっていなければ。そうだ間違えるはずがない。
高くもなく、低すぎもせず。

「生きてるな…」

確かめるような口調。
いいえ死にました、というか今から死ぬんですよ私。芝居がかった台詞が浮かんでは消えていく。
とうとう馬鹿になったんだなぁ私。銀時や辰馬じゃあるまいし。あ、そうだ馬鹿といえばヅラもいたんだ。それから大馬鹿な目の前のコイツも。

「し、んすけ…」

「あ?」

「何で、」

何で無事なのよ…。
何ともまぁ吐いたのは可愛さの欠片もない台詞だったので、これならまだ先程の芝居がかってはいたがそちらの台詞の方が良かったのになぁ。と、やけに冷静な思考で悔いた。

「ほら」

「ん?」

「飯、それ食ったらとっとと帰るぞ」

差し出されたオニギリも受け取れない身体なのに。何を言うのか、この男。
帰れるはずがないじゃないか。
それに少しはここがあんたと私の別れる場所で、今がそんなのんびりとお昼ご飯なんか食べてる場合じゃないってこと。解りなさいよ、ていうか解れ。解れ解れ解れ、解れよ馬鹿!





「そんな馬鹿が好きだったよ、あんた死んでも治らないくらいなのに。好きだったよ馬鹿晋助」

「知ってたぜ、そんなこと」

空から瞼に滴が落ちた。雨は降っていないはずなのに。
しかし一滴。

(080725)
泣いているのは私か彼かなんて愚問を。


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