sleep.05

□後ろからは卑怯だろう!
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「そう泣くのはおよしなさいな」

流れる涙を拭き取る手は生身のそれとは違うように感じた。
ひんやりとして、それでいて精巧。
でもシチロージさん、丘の上の岩に揃って腰掛けるなんて、やっぱり。漂わせているのは緊張みたいだし恋人みたいだなぁ、とかね。そりゃあ気になるじゃないですか。
しかもお互いに警戒心があるにしたって男女。これがきっかけで二人の仲が良くなるんじゃないかとか、急展開が待っているんじゃないかとか、思うんですよ。気が気じゃない!

「キュウゾウが」

「あぁ」

「キララちゃんと…っ」

「ならばもう少し近くまで行ってるかぃ」

気になるのだろう。
方眉を上げられた。これは挑発だ、乗るものか。
急ぎ首を横に振る。

「いや…それは怖い、んで」

ごめんなさい。深々と下げた頭に彼は何がですと言って退ける。
さっきの台詞は全てを知っているようだったのだが。まったく食えない男である。



「あ!」

「おや」

キュウゾウ様。と、名前を呼ぶ声が耳に飛び込む。
可愛らしい、けど私だって頑張ればあんな声くらい簡単に…!
それにうん、大丈夫。まだ呼び捨てじゃなかったから私の勝ち。
もやもやとしていると隣の男の瞳が私と遠くで肩まで晒している彼とを見比べてキラリと光った。目敏い。
残酷なまでに他人の振りを決め込んでいるのは巻き込まれたくないからか深入りしたいかのどちらかなのだ。
この場合はもちろん後者である。それは確か。

「女性の嫉妬は男に見せてこそだとは思わないか」

「なに、を」

にっこりと柔らかい微笑み。恐ろしいほどに昨日のそれと変わりない。
つまりは深入り、彼もまたそこらの野次馬と何ら変わりなく興味本意だったわけだ。相談なんか出来る相手なようで出来やしない。

「ほらほら戻って来たようだ」

「関係ありません」

「どうやら貴女を探しているようでげすが…」

「シチさん」

それが一体何ですか関係ないって言っているのに!
鬼のような形相でぐるりと振り返り文句の一つでも言おうとした。逃げないように胸ぐらまで掴んだ。

「………、」

「わ、ぁ」

しかし待ち受けていたのは驚きで見開かれた、全てを透かしてしまうような、赤い赤い…

「キュ、ウゾウの目って、そんなに赤かったっけ……」

「…無論、?」

疑問符を浮かべる彼なんて少し珍しいのでは。普段は見れない可愛さにドキドキと心音を高める。
が、そんな場合ではない。
掴んでいるのは確かに彼の胸ぐら。人違いというにも時間が経ちすぎた。言い訳は皆無。

「しっかり捕まえておけと言われた」

「…は?」

「譲るつもりはないと言った」

「ちょっ、何の話」

気が付けば先程までいた三本髷は何処にもいない。
いつの間に。


(081111)
果たして、彼は親切なのかお節介なのか。

1周年記念!
サンキューベリーベリーマッチ!


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