sleep.05
□R16
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机の上に広がるノート。びっしりと書き込まれている数字の羅列を見た途端に眠くなったと彼女は目を擦ってみせる。
しかしこれは授業中の爆睡を日課としているお前の為でもあるわけで、頼んで来たのだってお前からであるわけで。
つまり、だなぁ!
「も…無理、一時間したら起こして」
「待てこら寝るな」
手に握っていた(本当に握っているだけだった)シャーペンを放り投げるのは細いばかりの女の手。
もぞもぞとベッドに潜り込んでゆく彼女には誰のベッドだと思っているんだと言ったところで聞きやしないのだ。
仮にも男の部屋なのだがとも言ってやろうとも思ったがそれだって無駄でしかない事だって解っている。
今更だ。
その証拠に目を閉じたその寝顔には下心というよりか頭痛しか感じられない。
「じゅう君の匂いがする…」
「変態か」
「んふふ、しあわせー」
「…ばぁか」
今のは、限りなく寝言に近いものに違いない。
にも関わらずこんなにも反応してしまう自分、そして呆れつつも彼女の言論および行動の全てを許してしまう自分はやはり甘いとしか言いようがなく。
なるほど滑稽。少し前に呆れ顔の戸叶が言った意味が今になって良く解る。
惚れた弱みならばもう少し叱ってやることだって出来るのだが。彼女に対してはそうもいかない。
好きか嫌いかで問われるならば好きと答えるし。恋愛か友情かと問われればこれは確かに恋愛だ、胸だってしっかりと痛む。
しかし、ならば愛しているのかと聞かれてしまえば何も言えなくなってしまう。
否定ではない肯定。それはそうなのだが何と言おうか、いやはや照れてしまうのだから仕方がない!
「好き、だ…」
寝顔の彼女を目の前に隠してきた感情を晒けてみた。
当然ながら反応はなし。むしろ返されてしまった方が困ってしまう。
愛している、とも言ってしまおうかと迷うが。やはりそれは無理な話らしい。
迷っていること自体がいたたまれなく気恥ずかしくて、堪らない。
起きないことを良いことに頬をそっと撫でる。ふふっとくすぐったそうな声に、また、胸がきゅうっと締まる思いだ。
本人が気付いてもいないのに照れ隠しなんて。意味のない行動に苦笑を漏らす。
しかしそれすら幸せだなんて、嗚呼。
「…さて、と」
ぐいっと腕捲り。起きてしまう前にどうしても終わらせなければならないことが一つ。
放り投げられたシャーペンを拾い上げて、先程まで彼女を悩ませていたノートに向き合う。
ファイルの上には宿題らしき数学のプリント。
「(あと一時間、か)」
結局は笑う顔が見たいだけなのだ。
(081112)