sleep.06

□降り始めた雪は白く
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久々に遠出をしたものだ。
車窓から流れ去る景色は6時だというのにすっかり日が落ちきっている。
寒く冷えた、冬。暖冬なんてまるで嘘だ。


「オラ、起きろよ」

「んぅー…」

車内放送で聞き慣れた目的の駅が響く。
肩に寄り掛からせた彼女を起こすにも、返るのは気の入らない返答ばかりだと予想はつくのであまり気は進まない。
が、起こさないわけにもいかないし。(降り過ごしたら怒られるのは確実に俺なのだ。)

「…じゅう」

「起きたか」

「……、じゅう」

「馬鹿また寝るんじゃねぇよ」

あぁこんな事なら寝かせるんじゃあなかった。後悔に痛む頭を片手で押さえ付ける。
心配そうな表情で覗き込む彼女にそれを言えたらどんなに楽か。
知らないとは存外に楽であり、いや、罪だとまでは言わないでおくが。しかし、

「頭痛いの?」

「ちっげぇ、よ…っ」

目覚めたばかりの焦点の合わない目でこちらを見上げてくるのは少し、我慢がならない。
けれども此処は公共の場である。何とか理性で抑えきった俺は偉い。自画自賛。そうでもしなければやってなどいけない。

「う〜っ、寒ぃ!」

「そうかなぁ」

開いたドアから車内を抜けると瞬間、頬に吹き付ける冷たい風。
思わず身震いをして悪態を吐く俺を笑う彼女は、先程までの睡眠の所為で身体が温まっているのか愚痴の一つも口にしない。

「ほら、じゅう」

「え?……わっ!」

「私の手、温かいでしょ」

「あ、あぁ…ァ?」

ぎゅっと握ってくる手は小さい割には力強い。そして温かい。
緊張しなくても良いのに、と笑う顔がはにかんでいるので緊張してるのはどちらの方だと悪態を吐いてやる。またはにかんだ。頬は赤い。
そういえば手を握るなどという行為は片手で数える程しか覚えがなかったのだ。ましてや彼女からなど、初めてで。

「今日はバスじゃなくて歩いて帰ろうよ」

「お前こんな寒い日に何を、」

「そしたらさ、少しは長くいられるでしょ」





降り始めた雪は白く



「…馬鹿」

またそうやって、照れるなら何も言わなければよいものを。
(081213)

リクエスト下さった方へ。
十文字に温められるってよりは温める側になっちゃっいましたね、スミマセン。


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