sleep.06
□慟哭アンビシャス
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彼は地球、私は月。
リビングで借りてきたDVDを観ていたら脈絡もなく、ただ唐突に彼の兄である雲水にそう称された。
向けられた笑顔は穏やか。もしくは仏顔。
「うわぉ、何だか有難いお言葉を頂いた気がするのはどうしてかな阿含くん」
「そりゃ坊主だからに決まってんだろ。ほら、お前もちゃんと手ぇ合わせとけよ」
言われるがままに合わせた手を雲水に向けて二人で合掌。南無阿弥陀。
あらあら微笑ましいわねぇと笑う彼等の母親の声と、いや違うから俺は仏じゃないから…とあくまで冷静を貫く雲水のツッコミ。
何だかんだで金剛家は仲良しだ。
「で、何で私がお月さま?」
「アレだろ丸いからだろ」
「お黙り阿含」
ぐいっと頬を引っ張ると彼にしては情けない声が聞こえた。ざまぁみろ。
人に優しさをみせない奴はこうなるのだよ阿含くん。と心中で高笑ってみたのは良いがしかし行為についての跳ね返りが待っているのは彼だけではないようだ。
同じ箇所を同じような強さで引っ張り返される。無論、彼の手によって。
「いひゃい!」
「うるへーよ!」
「ははは」
ただ一つおかしいのはいつもなら即座に止めに入るはずの彼が笑って事態を傍観していることだ。
頭でも打ったのか、或いは悟りでも開いたのか。
やはり向けるは仏顔。
「…どうしたんだよ」
妙に思ったのは私だけではなかったようで頬に加えられていた力が徐々に減ってゆく。
一番驚いたのは双子の弟であったようだ。
「何がだ?阿含」
「いや…別に」
「おかしな奴だなぁ」
「…」
うん解るよ、微妙な顔だってしたくもなるよね雲水の方がおかしな奴なんだから。ねぇ阿含。
それに他人を天体で例えるなんて柄じゃあない。
違和感だらけな所為でどこが間違っているのかも安易には気付けそうにないし。
「あ…でも私、阿含が地球っていうのは何となく解るかも」
「は?何でだよ」
「世界は俺を中心に廻っているんだ的な精神がソックリ」
「…あぁ」
反論が出来なかったのが不満味そうにガシガシと頭を掻く。
そんな拗ねてしまった様子の彼に笑う兄。弟の拳は細かく震える。
あぁ怒らないで阿含、喧嘩になってしまうのは極力避けて通りたいのだ。
「月は…」
「ん?」
「地球の側から離れないんだ」
「と、言いますと?」
「……鈍いな」
「へ?」
あいつは解ったみたいだけど、と笑う先には潤んで泳ぐ黒い眼を見た。
(081220)
「可愛い弟をこれからもよろしくな」
月も地球も包み込む貴方はまさに宇宙!(そして私と彼は、引力で結ばれているの!)
リクエスト下さった方へ。
阿含ゆめというか、阿含寄りな金剛兄弟ゆめになってしまいました。(わー)
すみません仲良しが好きなもので。