sleep.06
□浸透スカーレット
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部活も終わったはずの校庭。
射して反射もせず地面に染みてゆく夕日はこの疲労感に酷似している。
赤い空、赤い光景、黒く映える影。変わらずに此処にあり続けるであろう毎日の光景。
それは日本でも米国でも同じことのようだ。
心が荒れていても穏やかでも同じことのようだ。
周りの人間が変わっても変わらなくても……いや、それは違うかもしれないが。
しかし安心する。
あの、赤い世界。
さぁ、溶けてしまおうか。
「おつかれー」
「あぁ」
背後から肩を叩く水町も、その労いの言葉ひとつでさえ。変わらずに存在する要因だ。
部室のドアを開け放ってこちらへ駆け寄って来るあの小さなシルエットだって。まさしく。
眩しさに目を細める。
しかし変わらないのは良いことだと知りながら変化を求めてしまう心情は。若さ故の、というべきか。
まとわり付いて離れないそれらの悩みは苦しく心地よく。それでいて恐ろしく煩わしい。目の前で彼女と戯れる仲間たちほど、煩わしい。
「なーんか鬱陶しい光景だよなー」
「…まったくな」
沸き上がって来たそれは堀当てた石油のように勢いよくどす黒い濁りを噴射し始める。
おまけにどろどろとした不快感を呼ぶ。あぁぁ気持ちが悪い。
「俺の女を取るなーって言えば良いのに」
「な、にを!」
「そしたら眉間に皺だって寄らなくて済むんじゃねーの?」
「……ば、っ!」
部室に走って行ったはずの仲間はどうやら彼女に向かって走っていたようだ。
お疲れさまのハイタッチを交わして上機嫌になって跳ね回る。屈んで頭を撫でる影も数人。
時折目に付くそれらのスキンシップは部活後のアドレナリン放出量増加に寄るものか、はたまた単に男の性に寄るものか。しかし度が過ぎている。
とは言え、恐らく原因は後者なので男とはつくづく馬鹿な生き物だと呆れるばかりで咎めはしない。
そうだ、仕方ないのだ、こればかりは。
「あーあ、言ってる側からムッツリしちゃって」
「ば…っ!誰が!」
顔を覗き込んでケラケラと笑う水町は襟首を掴まれる前に走り出してしまった。
無論、彼女の方向へ。
ただ少し、振り向いた笑顔の黒さが気ががりであるのだが。
(081230)
「お姫様、奪取ー!」
「あはは!きゃーっ」
「この水町、て…めぇっ!」
まさかのダークホース襲来。
慌てるなと言う方が無理な話だ。
★リクエストありがとうございました!遅くなってすみません…っ