sleep.06

□ラブストーリーは年明けに
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心臓に悪い。
身構えた先で小刻みに震えながらケータイがこたつからダイブしていった。
着地点は熱の伝わるホットカーペット。
電気器具に囲まれたこの部屋は下手をすれば夏季のそれより暑いので呼吸も苦しく感じてしまう。
せめて一度くらいは換気をしてみては。
いやしかし思うよりも外は寒いし。何より此処は自分の家ではないのだ、欲を言える立場ではない。


「友達かぁ?」

「あ、うん。だと思うけど」

テレビから視線を外さないままの幼なじみの質疑には適当な応答を返す。
目には目を、ではないけども適当には適当を。
どうせ心此処にあらず。返事なんか聞いてはいない。
やはりそれに対しての返事がないのを眉間に皺を寄せながら確認すると、テレビに釘付けな幼なじみの隣に座る彼と目が合った。
この二人は兄弟なのだ、しかも双子。信じられないことに。
となれば言わずとも彼も私にとっては幼なじみである。が、ひっそりと淡い期待を抱いてしまっている私にはひとくくりにそんな簡単な言葉で彼を表したくない気持ちもある。乙女心は複雑だ。

テレビの中では毎年変わっているであろう顔触れの芸人が年末年始早々に身体を張っているようでご苦労な事だと思う。
ある種いじめとも取れるそれらの映像に興味を持つことも出来ない私は先程震えた手のひらサイズの機械に手を伸ばす。
どうせなら年閉めは紅白が良かったのにと心の中で愚痴りながら開いた画面には見慣れた文字。
新着メール1件。


「メール、誰からだったよー?」

「…」

「一休かぁ?」

「…」

「瀬那だったかぁ?」

「……」

何とか言ったらどうなんだよ!
痺れを切らして立ち上がった柄の悪い幼なじみ。
しかし自身より数秒早く身を起こした私にその目は丸く見開かれる事となったわけで。


「う、んす…いっ」

「はぁ?」

あぁ、向こう側に見える笑顔は幻覚か。


(090102)
初詣は二人で行くか。


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