sleep.06

□幸福ロジックを解いた青年の心境は如何に
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風が吹いた気がした。
肌寒い、朝。つい先程まで眠りに付いたばかりだったようにも思う。錯覚。時間差マジック。
レム睡眠とノンレム睡眠の繰り返し?意識の有無?あーそんなの別にいいんだ知るものか。私はまだ眠いんです、おやすみなさい。

いつの間にか足元に蹴り剥いでいた毛布を手繰り寄せようと手を伸ばす。そしてさも当たり前のように幸せな二度寝の時間に突入するのだ。

「おはよーさん」

「んん?」

…と、思っていた。

掴めるのは宙ばかりであることに疑問を感じて眠たい目をこじ開けてみれば、瞬間に飛び込んでくる日差しに戸惑ってしまう。
プラス、毛布を抱いてそびえ立つ彼。何故だか笑顔。
大事な二度寝の時間は一体何処に消え失せたのか。聞くにも絶望的な返答しか帰らないことは安易にも予想が付くので口には出さないでおく。
しかし二度寝…。これは痛手だ。予想だにしない。


「…取り敢えず」

「あ?」

「毛布を返そうか、十文字くん」

「いやだって言ったらどーすんだよ」

ニコニコという擬音がよく当てはまる。
気味が悪い上に全くもって似合いもしない笑顔には思わず険しい表情を作らざるを得ず。苦労人ならそれらしく眉間に皺が一番お似合いじゃあなかったのか。違うのか。それ以前に何か企んでいる等とは……
疑い始めると終わりを知らなくなるもので、ドドドッと一気に疑心で満たされた思考は寝起きにも関わらずめまぐるしく働く。
驚いたものだ。朝ごはんすらまだ一口だって食べてはいないのに。すごいじゃあないか私。
空腹に気付くと同時にお腹が鳴ってしまうのは生理的とも言えるし、反射的とも取れる。できれば今朝は和食が良いなぁとは、これはまた別。単に呑気な考えでしかない。

「お願い、じゅうくん。良い子だから」

「良い子って、お前なぁ…」

高校生男子となればさすがに聞き分けがないようなので、こうなれば力強くだとばかりに手を出す。
ニヤリと上がった口角にこれは罠だった!と理解して瞬時に手を離すが重みが全身に降りかかって来るのは一瞬なので逃げ場がない。
引き戻されるように先程まで身を置いていたベッドに、今度は大きなおまけつきでダイブする羽目になるとは。まさかだ。

「ぐぅ…っ!」

「はははっ」

笑っている場合じゃあない!
痛い程に軋むスプリング。跳ねた身体が着地時にそれほど強い衝撃を受けなかったのは咄嗟に背中を支えてくれた彼のおかげだとか、解っているけれどお礼なんか言わないんだからね、絶対!
ぐるぐる頭を駆け巡る文句を言い放ってやるにもこちらは遠慮のない圧迫に窒息寸前なので息を吐くにも苦しい状態だ。声を出すにも無理がある。
せめて覆い被さるその憎い背中を連打して些細ながらも抵抗を、とも思うが。
拍子外れ。幸せそうに身体を抱き締めて来るので抵抗の気も失せた。

「柔らけーなぁ」

「……変態」

「所詮男なんてみんな変態なんだよバーカ」

「だからって開き直んないでよ」

呆れて力無く握り拳を解いた手は彼の背中へ。仕方なく。
叩くことを諦めて抱き締め返してやることにする、が。本当に、仕方なく。


「今日のじゅうくんは意味が解んないんですけど…」

「逆に俺は解らないままでいて欲しいんだけど」

「そういう所が特に」

「ははっ!」

だからその満面な笑みは一体なにが原因で。何の弾みに引き出されたのか、とか。
悔しいけど自分にはそこまで幸せになんかしてあげれそうにないから、ほんのちょっと嫉妬なんかしてみたり。するんだよバカ。気付けバーカ!(でもやっぱり怖いから気付かないで良いよバカヤロー!)


「何か良いことでもあったの?」

「あったけど、お前には絶対に教えてやらねぇよ」

「ケチ」

「だって、お前笑うから」


絶対に。そう付け足すと目の前の耳がほんの少し赤くなった気がした。
照れているのかとからかってやろうとしたが、すぐに訪れた唇の違和感にその言葉を封じられたではないか。
今日はどうにも言葉を遮られる日なのか。どちらにせよ言及はしないつもりではある(し、そんな気力も残ってはいないし)。

「ちょっ」

「良かっただろ」

「な、にが!」

「たまには、俺からするってのも」


あんまりにも爽やかに笑い飛ばしてしまうので、あぁこんな笑い方も出来たのかと妙な感心さえ感じるほどに。
ただただ眩しすぎて、また、眼を閉じた。


(090214)

目覚めて最初に見たのが君の寝顔だったというだけで、こんなにも幸せになる俺をお前は笑い飛ばせば良いさ!

(好きだ、好きだ!大好きなんだ!)(言えない代わりに想ってるんだ!)


★リクエストありがとうございました!


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