sleep.06

□閉塞の君に捧げるペチカ
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此処にいては場違いなのかもしれない。
考え込んでしまえば飛び込んでくるのは凄まじい轟音の数々と、空間を飛び交う日本語とは限らない様々な言語ばかりだ。
そして、それに伴ってズキリと走る電流のような痛み。何にせよ今は頭が痛い。(いや決して英語が苦手だからとかそういうのではなく…)


耳を塞いだ指は隠していたはずの気疲れを何のことなく、あっさりと表しているようで。酷く冷たくなっていた。
気付かれることのないように努めて振る舞っていたはずなのだけど……。もしかしたら気付けなかったのは私の方であって周りはみんな私の強がりなんかバレバレだったり、するのかもしれない。
何せ会った人のほとんどが初対面だったのだ。気疲れても無理はない。無理はない…けど、


「(駄目だなぁ…)」

人見知りなんて子供みたいじゃあないか。余裕がないと遠回しに言われているような。恥ずかしい。
それが周りにバレているのなら尚更。
はぁ…。深々と吐いた溜め息は何だか呼吸を繰り返す度に、また体内へと戻っていってしまうような息苦しさを生み出す。
しかし呼吸は止めてしまう訳にもいかないし。無論、意識的に止めることも出来ない。
何という悪循環ループ。抜け出せない。


心の奥底から滲み出る駄目という言葉は自分の鈍さかもしれないし、状況に応じる事に慣れる振りをしてしまう悪いくせについてかもしれなかった。
が、どちらにしても私の事には変わりがないのだ。それは解っている。



「…耳」

「え?」

再び襲う落胆に打ちひしがれていると、塞ぐように耳を覆っていた手に何処から伸ばされたのか、知れない手が触れた。
そっと押さえ付けられたそれは大きく華奢なようで、私とは違い過ぎる感覚に疑問符を撒き散らすばかりしか反応を返せない。
でも待った…この感触は、この体温はもしかして。

「え、ちょっ…あの」

「…鳴る」

と、言いますと?
聞く暇もなくゴゴゴォォォとまた騒音が響く。
ひ、飛行機…!(あぁやっぱり鷹くんだった!)


「…あまり無理はしないで欲しい」

「そ、んな無理なんて、全然余裕だよ!」

「しかし連れて来たのは俺には責任がある」

「いやでも付いて来たのは私だし…ね?」

どちらも譲らぬ雰囲気に向かって小さく吐かれた溜め息。
はっとして目の前の彼を見れば明らかに困惑の色をしていて。
あぁ違う、違うんだ、彼を困らせに来たんじゃないのに。
再び迫る落胆。何をやっているんだろう、私は…。


「ごめんね…何か本当に、頼りなくて」

「…」

「鷹くん?」

「………君は、」

何も解っていないみたいで安心した。
たっぷりと間を取った後、開いた口から発せられた言葉。常のそれらも去ることながら毎回そうだ、言うこと全てにおいて理解がし難い。
一種の暗号に近い一言に首を傾げると返されるのは柔らかい微笑であったので。つられるように、こちらも自然と口元が緩む。
しかし初めて見るような穏やかさに急激に耳が熱を帯び始めたのは。これは一体どうしたことだろう。


「出来ることなら、そのまま何も変わらないでいてくれたら良い」

「突然なにを、」

「そう思っただけだ」

「…」

「それだけで十分な存在理由になるのだし」


手招きをされて、轟音もないのに塞がれた耳。
熱にバレてしまったかもしれないがそんなのはどうだって良いんだ。今は。

ただ、彼の唇が動くのを見た。それだけで。もう。


(090314)
(ありがとう、)
(愛してる)



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